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「聞かれたことにだけ答えろと言ったはずだ」
少女は靴のままずかずかと部屋を横切り、窓際にかけられていた茶色じみた洗濯物を払いのけて外を見た。
「ここから見える公園か」
「は、はい」
「何をしていた」
「何・・・・?」
夫は首をひねった。老婆が答えた。
「水を・・・水を飲んでいました」
「水?」
「は、はい。水を飲ませてもらえてないみたいで、時々お水をくださいって言う声が聞こえていました」
「で?」
「てめーに飲ませる水なんかねーんだよと言われていました」
老婆の目から涙が出た。涙はこぼれる前に無数に刻まれたしわの中に埋もれてしまった。
「一度・・・」
夫も口を開いた。
「一度、風呂の水を勝手に飲んだと怒鳴られていました。そのあと、、、たぶん水風呂につけられていました」
豚が鼻息を鳴らしたような音がした。老婆が嗚咽していた。
「もういい。子供の名前は?」
老人二人は顔を見合わせた。
「名前・・・・わかりません。『おい』『こら』『おまえ』『ばかが』と呼ばれるばかりで」
「名は、ないかもしれんな。厄介だな」
少女は立ち上がった。
「行くぞ」
「え?」
飯島は思わず周りを見回した。
「お、俺?」
「そうだ。ついてこい」
飯島は、訳が分からないまま公園へと連れてこられた。自分には職務があり現場を離れることはできないと訴えたが、上司はあきらめたような笑顔を浮かべて
「行ってこい。非科学捜査研究所からのご指名だ。がんばれよ」
と言われてしまった。
もしかして俺は、ヤバいものに目をつけられたのか? 飯島はぶるっと震えた。
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