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ものすごい目でにらみつけられて、飯島は飛び上がるようにして砂場に向かった。例の子どもは、水を飲んだ後は砂場に座り込んでいることが多かったと、老婆が証言したからだろう。
でも俺は何を探すんだよ。砂場って猫のフンとか落ちてて嫌なんだよなあ。
飯島は不気味な少女から物理的な距離を取れて、ほっとしていた。適当に砂を掘り返しておこう。知ったことではない。
飯島は砂を手ですくってはさらさらと落とした。保育園の頃はよくこんな遊びをしたものだ。泥団子も作ったなあ、よしこ先生が初恋だったなあ、元気にしてるかなあ。。。
などと思い出に浸りながら砂をさらさら落としていると、指と指の間に引っかかるものがあった。
「うん?」
それは飴色の小さな固まりだった。半透明に透き通っていて、指先でつまめるくらいの、涙の形をした固まり。
ビー玉・・? ではない。海の波打ち際に打ちあがっている、角の取れたガラスのかけらみたいな、柔らかくて、それでいて・・・・
「悲しい・・・・」
手のひらにのせていると悲しみがこみあげてくる。なぜだか知らないが、飯島の目から涙があふれた。
「ここだったのか」
いつの間にか少女が目の前にいた。
「よこせ」
言われるままに固まりを少女の手のひらに落とした。とたんに涙が引っ込んだ。
「あの・・・これ、何なんですか?」
「琥珀だ」
「こはく?」
「虎の涙が凝り固まって結晶になったものだ。まだ柔らかい。これが硬化する前に、捕まえられるかどうかだ」
そう言い捨てると、少女は振り向きもせず歩み去った。
「何なんだよ」
飯島はへたり込んだ。少女の理不尽なふるまいへの憤りと、さっきまで手のひらにあった深い悲しみ。それは飯島の処理能力を超えていた。。
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