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涙
子供は、二人が酔いつぶれたのを確認してからそっと家を出た。部屋に散乱している空き缶や割れた瓶を踏まないように気を付けながら、サンダルをはいた。今はいているのは大人が拾ってきたぼろぼろのビーチサンダルだ。
「ほら」
と投げてよこされたものを、ずっとはいている。大人用のサイズの大きなサンダルをずるずるとひきずりながら、子供は公園に向かった。のどが渇いていた。
5月の日差しがさすように痛い。目まいがした。子供は深呼吸をしてから歩き出した。高齢化が進んだ街並みに人の気配はなかった。手押し車を押す、うつろな目をした老婆とすれ違っただけだ。老婆の目に子供は映っていないようだった。
子供は公園にたどり着いた。水道の栓をひねると、キラキラした水が上向きにあふれ出した。子供はむしゃぶりつくように水を飲んだ。
ずっと何も入れてもらってなかった胃袋が一瞬縮み上がった。でも構わずに飲み続けた。
「はあ・・・」
子供は水道の蛇口を閉めて、その場に座り込んだ。水が、体にしみわたっていく。
でも、水を飲むのは好きじゃない。
のどの渇きが満たされたら、次に来るのは空腹だとわかっているからだ。
おなかが空いた。子供の言葉に答えてくれる人間は、子供の世界にはいなかった。
「うるせー」
そういわれて投げつけられたたこ焼きが床に落ちる。不潔な床に散らばったたこ焼きのかけらを、子供はすする。
そんな食べ方しか、子供はしたことがなかった。
空腹も惨めだったが、空腹を満たす行為もまた、みじめなものだった。
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