窓際の男

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 朝食を終えた達雄はスーツに着替えた。選んだのは鼠色。ネクタイは暗褐色だった。達雄はバス停に向かうが待ち人はいない。駅まで歩くことにした。    傘の柄をじっと見つめ達雄の足取りは重い。後ろから来た人々が次々と達雄を(かわ)して行った。達雄が駅に着く頃にはスラックスのセンタープレスは跡形もなく消えていた。ホームでは目当ての快速電車の後ろ姿もほとんど見えなくなっていた。達雄は次の快速を待つ気になれない。直ぐ来た各駅に乗車した。  車内はまだ込んでいた。乗客に押された達雄が吊革に手を伸ばす。目の前には転職エージェントの広告ばかり。ドアの上の動画は何も頭に残らない。
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