窓際の男

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「天気はどうかな?」  窓際のベッドで目覚めた窓川達雄がカーテンを開けると雨だった。 「今日も雨か...」  ここ最近達雄の気分もさっぱり晴れない。達雄は一層落ち込んだ。  達雄の会社はコロナ禍以降、在宅勤務を制度化していた。デスクワークがメインの達雄は月の大半を自宅で勤務が可能となっていた。通勤に一時間半かかる達雄にとってこの制度は本当にありがたい。達雄は既に五十代。満員電車の通勤は今や苦痛以外の何ものでもない。この日の午後、達雄は部長と面談だった。  達雄はヨレヨレのパジャマ姿のまま歯を磨き、顔を洗った。そのまま朝食の支度を始める。妻の明美は不在だ。半年前、明美の母が入院した。一人になった父親がめっきり弱り、明美は月の半分は実家に帰省している。  達雄は湯を沸かし、冷蔵庫から牛乳パックを取り出すとカエルみたいな名前のメーカーのシリアルの封を開けた。勢いあまって中身が飛び散る。パッケージの虎が大きな口で笑っていた。達雄は散らばったシリアルを一つ一つ(つま)みボウルに戻していった。  湯が沸いた。達夫はカップとティーバッグを準備し湯を注いだ。ティーバッグを心なしか強く揺すると糸がツッと抜けた。ティーバッグはだらしなくカップの底に沈んだままだ。
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