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「トントン」ノックの音がした。
「はい」達雄が返事をすると槍手部長が入って来た。
自信に溢れ、活力ある笑みを絶やさない。いつもの槍手だ。スーツの上着を脱いで白いワイシャツの袖をまくっている。ネクタイは明るいイエローだった。
「おうっ、お待たせ。外はまだ雨か。まったく、こんな日は気分が塞ぐ。体調まで悪くなりそうだ。なあ窓川、お前の方はどうなんだ?」
槍手部長は同期のよしみでざっくばらんだ。
達雄は心の中で呟いた。
「たっぷり濡れている」
達雄は目線を机の通知にわずかに落とした。
「窓川。ところで、今日は業務通知の話だって。俺の部署には対象者が五人だ。面談はこれからだがどっちのプランを選んでも厳しい。どの部署も大変だろう」
「あぁ」
「プランAは退職金の割り増しか。だが、額は雀の涙。プランBは給料三割減、それに役職解除。どっちをとってもたかが知れてる。クッソォ、面談が思いやられる」
「そうだな」
「窓川、お前、ローンは終わったのか?今回は対象者の幅が広いからな。俺たち営業も死にもの狂いで頑張っているんだがなかなかうまくいかん。何せこの円安だ。輸入ビジネスはあがったりだ」
「・・・」
「今日も事務所にいる連中は大半が営業だ。営業は足で稼いでなんぼだろ」
「槍手...」
「おっ、なんだ?そうか。業務通知の話だったな。で、なんなんだ?」
「昨日のオンライン役員会でお前は対象になった」
「・・・」
窓川常務が目の前の通知を静かに部長に押し出した。
「槍手、お前どっちを選ぶ」
窓側の雨はもうすっかり止んでいる。
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