3話

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3話

 久木野邸は広い。端から端まで歩くのにも息が切れるほど。邸宅に入るまでも大きな門を通り、その後小さな門を通り、ラウンドアバウトをくるりと回ってやっと邸宅の前に着く。階数は3階建で至って庶民的だが、天井が高く建物の幅も広いため威圧感のある風貌をしている。真祖の中で最も地位が高く、唯一与えられた公爵家としてはぴったりの邸宅だ。  その邸宅の一室。どこの部屋よりも豪華絢爛なそこに2人の真祖がソファに腰を下ろしじっと睨み合っていた。1人は世那と対峙した利津、もう1人はその父、(きよし)。 「利津」  父に名を呼ばれ、利津は顔を上げた。利津は部屋に入ってからソファに腰を下ろし手を組み黙り込んでいた。利津と見た目こそうり二つの清はコホンと喉を鳴らし、手元にあった書類を目の前のテーブルに捨てるように置いた。 「襲った輩を保護しただと?」 「鎖に繋ぎ隔離しています」 「そんなことは聞いておらん。何故罪人が未だこの屋敷にいるのか聞いているんだ」  飄々とする利津に苛立ち、清は机を拳で強く叩いた。利津は音に驚くことなく組んだ手で口を隠し視線を逸らした。その態度は更に清をイラつかせる。 「利津!」 「はい」 「っ〜!私の質問に答えろ。人間の王から子爵を賜りいい気になっているのか?公爵である私に逆らう理由にはならんぞ」 「逆らってなんかいません」 「なに?」 「罪人だろうが、俺が捕らえたものです。どう扱おうが勝手でしょう」  利津の落ち着きっぷりに清は大きくため息を吐いてソファに深く背中を預けた。たった1人の長男は父の言うことを聞くどころか承諾も得ずに動く。 「それに……」  利津は両手を広げ自分の背後、正面、ドアを指した。 「父上がおっしゃいました。『私のように吸血鬼を作れ』と」 「それは、お前が自ら作れと言う意味で主人のわからぬ吸血鬼のことではない」  この部屋には2人と、仕えている吸血鬼たちが4人いた。メイドや執事達は誰1人目に光を宿していない。清が吸血鬼化させた従順な者達。命令があればたとえそれが死でも躊躇なく行う人形達だ。  利津は鼻で笑うと指した吸血鬼達を一掃するように手を払いソファから立ち上がって清を見下ろした。 「俺にはこんなもの必要ない」  清の返答を待たず利津は自らドアを開け部屋から出ていった。吸血鬼達は何も言わずじっと清の命令を待つだけ。静かな時が少しだけ流れ、清は体を縮こませ親指の爪をかじった。 「っ……」
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