3話

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 利津は飄々と長い廊下を歩き、大きな階段を降りていった。清に呼び出されることは日常茶飯事だが慣れていると言えば嘘になる。出来れば会いたくないし、関わりたくない。  利津を見つけるなり深々と頭を下げる執事の1人を利津はジロリと睨み目で合図を送った。執事はびくっと震えたがそろそろと利津の前に行くと手を胸につき頭を下げた。 「佐藤はどこだ」 「は……?」 「(りゅう)のところへいく」 「えっと……」 「遅くなってすみません」  戸惑う執事の背後からひょっこり佐藤が現れ、きっちりした運転手の服装でぺこりと利津に頭を下げた。執事は深く頭を下げるとそそくさとその場から去っていく。それを見送りながら悪びれる様子のない佐藤を睨むように見ながら利津は溜息を吐いた。 「どこに行っていた」 「トイレです」 「……」 「まあまあ、行きましょう。隆様のところですよね」  そう言うと佐藤は慌てずそれでいて早足で玄関の扉を外へ開け放った。ふんわりとした春の風が部屋の中へ一気に流れ込む。陰気臭い邸宅に僅かに爽やかな空気が入り、利津は深く息を吸った。 「……こっちの方がずっといい」 「はい?」 「お前に言ってない」 「いや、俺しかいないっすから」 「独り言だ」 「ハハハッ、失礼しました」  へらへら笑いながら佐藤は運転手用の帽子を深くかぶると車の方へ駆けていった。  利津の世話をする執事やメイドはただの人間だ。吸血鬼化された者達のようにただ命令を待つ生き物ではない。今のような失態も平気でするし、時に揉め事を起こしたりもする。  面倒と言えば面倒だが、利津はそれが心地よかった。此方が発したものにのみ反応し、都合のいいように作り出した吸血鬼に何の魅力があるだろうか。  用意された車に乗り込むと利津はポケットから携帯電話を取り出し、電話をし始めた。佐藤は邪魔をしない程度に「発車します」と告げるとゆっくり車を走らせた。
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