3話

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 利津がいなくなって何時間経っただろうか。  日の光は変わらず煌々と部屋を照らし、布団の中では暑く汗でびっしょりになった体が気持ち悪い。  世那は布団の隙間から少しだけ辺りを見渡した。真っ白な壁は日の光を受け更に光っているように映り、目が焼けるほど辛い。何度か瞬きをして誤魔化しながらやっとのことで壁にかけられた時計が目に入った。 「うそだろ……」  時計の針は昼すら越しておらず、まだ午前中だと示していた。  汗だくな体を綺麗にしたいし、トイレにも行きたくなってきた。それにいつから食べていないのか空腹を通り越してお腹が痛くなってきている。  するとドアをノックする音が聞こえ、世那は返答せず布団の中からじっとドアの方を見つめた。 「失礼します。お昼ご飯お待ちしまし……ん?」  肩でドアを押し、両手に盆を持って女性が1人入ってきた。綺麗に結われた茶色の髪を揺らし、まだ10代のあどけなさを残す女はもっこりした布団を見つけるとサイドテーブルに食事を置き、世那の覗く空間を覗き込んだ。 「あ、いた」  髪色と同じ茶色の瞳と目が合うと世那は布団の中に隠れた。咄嗟に隠れてしまったが隠れる必要はなかったかと潜った後に世那は後悔した。今更ひょっこり顔を出す気にはなれず布団を抱きしめてこんもり丸まった。  女は引っ込んでしまった世那に目を丸くした。主人のいない吸血鬼と聞いていたので、それは恐ろしい雰囲気の人なのだろうと思っていたから拍子抜けしてしまったのだ。 「大丈夫ですか?」  つんつんと、世那の布団をつつくが反応はない。女は腕を組み何故出てこないのだろうと思案した。そしてある一つの答えに辿り着き、指をピンと立てた。 「あっ、おひさま嫌なんでしたっけ」 「……」 「カーテン閉めておきましょうか。待っててくださいね」  返答を待たず女はカーテンの方へ行きぴったりと閉めた。わずか木漏れ日が入るが致し方ない。  それでも出てこない世那は出てこようとしない。女はうーんと悩み、また答えが思い浮かぶとドアの方へ向かった。 「私はもう出ますね。食べ終えたらテーブルに置いておいてください。失礼します」  女はぺこりと頭を下げて部屋を後にした。  世那は暫く布団の中に隠れていたが、誰もいなくなったことを確信すると勢いよく布団を脱いだ。女がカーテンをしていってくれたので陽光がなく心地いい。 「ふーっ」  世那はやっと自分の身なりがどう言うものかはっきりと理解できた。  紺色の浴衣一枚というだらしない姿、わかっていたが下着すら履いていない。足枷がついているため着替えるのが困難だと思っての配慮だろうが、さっきの女に見られたりしたらたまらない。寝返りを打つことを考えればおちおち眠ることもできなさそうだ。  ベッドから降りて久しぶりに自分の足で立った。  ここに入ってくるものは靴を履いていたが世那にそのようなものは支給されていない。ジャラジャラと鎖を引き摺り支柱となっている大きな杭を睨みながら部屋の中を見回した。  さっきまで寝ていたベッド、料理が置かれたテーブルに椅子が二脚、部屋を出るためのドア、ベッド横には壁があるがその向こうにトイレと浴室があるのだろう。  世那は壁の向こう側にあるドアを開けた。そこは脱衣所でご丁寧に同じ着流しが一反畳まれており、バスタオルも一枚だけあった。捕虜にしては高待遇な対応に世那は首を傾げた。 「まぁ、いっか」  深く考えても仕方がない。世那は汗で濡れた着流しを脱ぎ捨て浴室に入った。シャワーが一つとシャンプーとボディソープがあるだけの簡素な空間。残念ながら足枷が邪魔して完全にドアを閉めることはできないし、浴室の奥まで入ることは叶わない。シャワーの口を捻り、束の間の安らぎを世那は堪能した。
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