3話

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 風呂から出て水気を拭き取り、新しい浴衣に袖を通して部屋に戻った。久しぶりの風呂にサッパリして少しだけ気分がいい。 「さて……どうすっかな」  逃げ出すにも枷をどうにかしなければ始まらない。重さだけではなく吸血鬼が苦手とする銀で出来ている為、足についているだけでも徐々に何か奪われているような感覚がする。そもそも足枷から繋がる大きな杭を引きずって逃げ出すことなど不可能に近い。  しばらくは大人しくしていた方が良さそうだが、悠長にしていられない。早く出て本当の犯人を見つけ出さなければならないからだ。  久木野邸に何の恨みもない自分がこの邸宅を襲うはずはないし、そもそも何故二日間の記憶がないのか理由が知りたかった。 ぐぅ〜  聞き慣れない音が部屋中に響き渡る。 「はぁ……まぁ、そうだよな」  情けない音を出した腹を撫でながら世那は苦笑し、テーブルに置かれた料理に視線を向けた。  あれから時間が経ちすっかり冷めていそうだが気になる。世那は誘われるようにテーブルへ足を進めた。  柔らかそうなパンが二つ、ドレッシングがかかって少ししんなりしてしまったサラダ、冷めてしまったクラムチャウダー、ぬるくなったコーヒーが置かれていた。  捕まっているんだよな?と疑問に思うほど美しいご飯に世那はますます訳がわからなくなった。そもそも犯罪者として捕らえたのならば地下牢獄にでも入れればいいし、風呂などいれる必要もない。窓とドアに近づけないだけで他は比較的自由度が高い。 「……」  やはり考えたところで何一つわからない。  とりあえず腹ごしらえはした方が良さそうだと思い、椅子に座り食べ物を口の中に押し込んだ。毒が入っているかもしれないなど考える余裕もないほどお腹が空いていた。  何日ぶりかの食事に体が喜ぶ。クラムチャウダーをスプーンで掬い口に入れた時、体が動かなくなった。何か薬物が入っていたとかではなく、どこか懐かしく品のある味付けに覚えがあった。そういえば軍隊に入ってからこんな温かな味のするものを食べていなかったように思う。軍隊……それよりもずっと昔から食べていなかった。  ころころとした野菜たちが咥内で踊る。幼い頃、時々作ってくれた母渾身のシチューと同じ、市販のルーが作り出すありきたりな味がじわっと染み渡った。 「……ふざけんな」  こんなところで、こんな目にあって、人ではなくなったのに蘇るのは幼い頃の幸せな記憶。久しく受けていなかった人間のような扱いに世那の目からは大粒の涙が溢れていた。
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