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「美玖様」
凛としたリリィの声が二人の時を止めた。
「なぁに?」
「ご主人様にご褒美をあげるのはまだ早いのでは?」
もう少し、というところでリリィの邪魔が入り美玖はむすっとした声を上げ利津から手を放してリリィに振り向いた。
「私のやることに文句があるの?」
「いえ」
「じゃあ何?」
「ご主人様にはまだやっていただかなければならない仕事がたくさんあります。何も成し遂げていないのに美玖様の眷属になれるなんて、卑怯です」
リリィの表情は一つも変わらなかった。眉すら動かさず淡々と言うその姿に、美玖は怒るどころかにんまりと笑って立ち上がった。
「ふふっ、そう。そうね。あなたの方が私のために動いてくれているのに。ただ怒鳴りこんできた利津が先にってのはおかしな話だわ」
「私のご褒美も後日で構いません。美玖様の願いがかなった日、私が本当に役立った日に」
「……あははっ、聞いた?利津。あなたのメイドはとーってもいい子ね」
甲高く、狂気が混じった美玖の笑い声だけが部屋にこだまする。利津もリリィも何も言わなかった。
気分がよくなった美玖はくるりとスカートを翻し廊下のあるドアの方へ歩いて行った。
「さてと、お父様とおばあ様の葬儀の準備とかあるんでしょう?私はお風呂に入ってくるから、二人で何とかしておいてね」
「かしこまりました」
動かない利津の代わりにリリィは丁寧にお辞儀をして美玖を見送った。
バタンとドアが閉まるとリリィは振り返り、未だ床に座ったままの利津の前に立ち見下ろした。
「お仕事ですよ、ご主人様」
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