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4話
「いい気なものだな」
低く冷たい声が聞こえ、世那はゆっくりと目を覚ました。見慣れない白天井に一瞬ここがどこかわからなくなったが、覚醒し始める意識の中で現状を思い出す。世那は額に手を当てため息を吐いた。
ふわふわの布団から上半身を起こし、はだけた胸元を直しながら声の主、利津を睨みつけた。
利津は朝と変わらず白の軍服姿で立っていた。半日経ったというのに服どころか癖のある銀髪すら乱れていない。
女が閉めてくれたカーテンは再び開け放たれ、日差しはいつのまにかなくなり月明かりがうっすらと部屋を照らしている。電気がつけられていないため暗いが、吸血鬼になってからというもの世那は夜目が利くようになったため不自由には感じない。
「大尉殿がわざわざ何の御用ですか」
慇懃無礼な態度且つ敵意剥き出しの強い語調に利津は口端を上げた。
「ククッ、いいな」
「……」
「何か思い出したことはあるか?」
「ありません」
「何一つないのか」
「ありません」
会話をしたくないと露骨に出し、世那はふいっと視線を逸らした。何も思い出していないし、そもそも世那の言うことを利津が信じるとは思えなかった。
頑なに表情も変えず視線すら合わせようとしない世那に利津は踵を返し部屋を出ていってしまった。
「……何しに来たんだよアイツ」
拷問するわけでも尋問するわけでもなくさっさと去ってしまった利津に世那は首を傾げた。
日が沈みやっと動きやすい時間帯になったとはいえ、特にすることがない世那は布団を被り再び眠りについた。
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