35.5話

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35.5話

(side:世那)  あの日、利津の父さんが死んだ日。俺は久木野の眷属に連れて行かれるままここに来た。  日の光が一切入らないように積み上げられたごつごつとした岩肌が剥き出しになった壁に囲まれた地下牢。じめっとしていて空気が重くてカビ臭い。簡易的なベッドと便所、手洗い場があるだけの部屋。  本当に犯罪者になったのだなと改めて自覚させられる。 「そこに座れ」  男が命ずるまま俺は岩肌が剥き出しの地面に座った。後ろ手に手錠をされたままだから居心地悪いが男はそれを外す素振りもなく牢の鍵を閉めて出ていった。  これからどうなるのか。先のことを考えても仕方がないし、休む気にもなれない。目の前で利津の父さんが死んだ。止められなかった。自分の無能さに吐き気がする。  何故俺はあそこにいたのか。……理由は簡単だ。本当の親であった田南部美玖が俺に命令したのだろう。眷属化した元人間の吸血鬼は主人の命令は絶対になる。不必要な自我は捨てられ、主人の駒として使われる。  あの日ここに侵入したのも田南部美玖の命令だったに違いない。そうでなければ知りもしない邸宅に侵入できるわけもないし、何の意味もない。  俺は横にあったベッドに頭だけを預けて一点を見つめながら止まらない思考の波に飲まれていった。
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