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「何の騒ぎだ」
聞こえた声に死にかけた男の体はぴくっと反応した。二人の執事達も話を止めると背後に視線を向け、深々と頭を下げた。
「お、おかえりなさいませ」
執事は男から銃口を逸らさぬままでいられたことが奇跡だった。現れた男に体が無意識に恐怖し、執事達の声は震えていた。
現れた男、久木野利津はきりっとした鋭い翡翠色の目を細め、倒れている男を睨んだ。
「倒れているそれは何だ」
「はっ、これは……」
「侵入者です!」
コツンコツンと硬い革靴の音が広い廊下に響く。
癖のある銀髪は後ろに撫でつけられてかっちりと固められ、その髪色に負けないくらい日焼けを知らない肌の色の性でひょろりとした体形に映る。が、歩く姿から相当鍛え抜かれていることがわかる。
利津はゆったりとした足取りで重心を移動し、銀色の長い睫毛を瞬かせ翡翠色の瞳でジロリと倒れている男を見下ろした。
倒れている男は、か細い呼吸を繰り返しながら焦点の合わない目で利津を見上げ、ハッとした。
威圧的な言動からは想像できないほど美しかったからだ。天井からぶらさがる電飾を背に銀色の髪は煌めき、すっと通った鼻梁、薄い唇、二重で持ち上げられた瞼から見える綺麗な翡翠色の瞳。
危ないから近づかないほうがいい、執事たちはそれすら言えず体を固くして立ち尽くしている。人間の血が一切混じっていない真祖の吸血鬼、久木野利津は何の迷いもなく倒れた男を軽々と持ち上げた。
「これは俺が預かる」
「へ?」
「父に報告は無用だ。俺から伝える」
「え?あの……」
「口答えをするつもりか?」
たった一言でその場にいるものは息を詰まらせた。元人間である吸血鬼にはない捕食者の覇気。二の句を告げられないほどの確固たる言動に誰が言い返せよう。
「……いえ」
執事の一人がやっと声を絞り出すと利津は血濡れた男を抱えながらその場を後にした。
男は頭が逆さまのまま抱えられ、どこへ連れて行かれるかわからないまま意識を飛ばした。
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