21人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい親なし吸血鬼がここに侵入したぞ」
「え?親なしって、元人間なのに主人がいないとかいう輩のことか?」
「そうそう。主人がいないから何するかわかんねえって特別部隊に入れられてる奴らだよ」
「なんでそんな奴が、帝国の貴族様の屋敷にどうやって。サイレンだって鳴らなかっただろ」
興奮冷めやらぬ執事2人は休憩用の部屋に戻るなり同僚たちに口早に伝えた。この邸宅が出来てから一度たりとも侵入を許したことはない。そんな場所に侵入者が来たとなれば騒がずにはいられなかった。
「貴族っつったってここ真祖の家だぞ」
「そうそう。しかもよりにもよって真祖様の頂点に立つ久木野邸に」
「しかしよく一人で来たよな」
「吸血鬼は夜目が利いて身体が丈夫っつったって限度があるだろ」
「まぁ、銀弾で一発だったけどな」
主人がいないことをいいことに執事たちは下品な声で笑った。
「ま、俺たちは親なしじゃなくてよかったよな」
「あぁ。旦那様に血を抜かれる時の快楽ったらもう……」
「な。命令される時の何も考えられなくなる感じとかさ。人間じゃ味わえねえよ」
「しかし、利津様はいつ吸血鬼をお作りになるのか」
「旦那様のたった一人息子だろ?そろそろしっかりしてくんねえと」
「旦那様の手前、俺たちが色々してるけどなんつーかな。心から嬉しくねえっていうか」
「悦びがない」
「そう!」
「な?」
「おつかれーす」
執事たちが下世話な話をしているところに帽子を脱ぎネクタイを緩めながら一人の若い男が入ってきた。
30歳に差し掛かろうとする執事達とは違い、20歳になったばかりの瑞々しさを溢れさせながら男はくりっとした茶色い目を細めた。
「おう人間。ここは吸血鬼様達の部屋だぞ」
「噛まれたくなかったらとっとと部屋に帰んな」
帽子で蒸れてしまった頭を掻きながら男は執事たちに目もくれずデキャンタからコップに水を注いで一気に飲み干した。もちろん執事たちは無視されて黙っているつもりはない。執事の一人が立ち上がり、男の横に行き顔を覗き込んだ。
「言葉もわかんねえのか?」
ひしゃげた笑いを浮かべる執事とは対照的に若い男は執事を見て大きくため息を吐いた。
「利津様の悪口言うってことは遠回しに旦那様ディスってるってことだろ?そんな奴の言葉なんかわかんないね」
「なんだと?」
執事は男の手首を掴むと強く引き寄せた。同時に見た目は白髪に変わり真っ赤な瞳が男の首筋を捉えにんまりと笑った。だが男は表情一つ変えず吸血鬼化した男を見据えた。
「おやめください」
強く凛とした女の声が響いた。執事の動きがぴたりととまる。他の執事たちも現れたメイド服姿の少女に視線を向けた。
最初のコメントを投稿しよう!