2話

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 戸惑う世那に利津は捲し立てるように同じ質問を繰り返す。 「もう一度聞く。何故この屋敷を襲った」 「……俺じゃない」 「嘘をつくならもっとマシなことを言え」 「父さんと母さんの墓参りを捨てて何で俺がここにいるんだ」 「お前の事情など知らん。何が目的で誰の差し金か言え」 「知らねえよ!」  利津が自分よりもずっと身分が上だということを忘れ、世那は声を張り上げた。広い部屋に世那の声が響き、そしてシンと静まり返った。鋭く冷たい翡翠色の瞳が何の感情も乗せず世那を見つめている。  謝ればよかったかもしれない。けれどもここで弱気になれば覚えのない罪を認めたことになってしまう。それだけは絶対回避したい。  そう思った世那は一つ息を吐くとまっすぐ利津を見つめた。 「神に誓って」 「ハッ、神……。人ならざる者が神に何を誓うと言うんだ」  世那が思うより目の前の大尉殿はお人よしなのかもしれない。少なくとも世那が会ってきた軍人の中で誰よりも。他の上官ならば口答えした瞬間に殴ったり罵声を浴びせたりしただろう。 「なりたくてなったんじゃない」 「……ほう」 「知ってるだろ。第三部隊は主人のいない親なし吸血鬼の集まりだって。それに……」  吸血鬼。世那のいうそれはもともと人間だったもののことを指している。一般的に血を吸うことで生を保ち、人間の何倍もの力を有し、寿命も長く、人知を超えた存在。  ただ元は人間だった吸血鬼達にはエラーが起きる。自分を吸血鬼へと変貌させた主人、つまり親の命令は絶対になってしまうこと。生まれつき吸血鬼だった真祖とは違い、元人間の吸血鬼は人間に噛みついてもその者を吸血鬼化することはできない。  世那は元人間の吸血鬼で、利津は真祖だ。本来元人間の吸血鬼は真祖を恐れる。ただそれは本能からくる者ではなく社会的な理由で吸血鬼達は自ら下につくことを望むからだと言われている。 「吸血鬼は嫌いだ」 「俺を目の前にしてよく言える」  ポツリと呟いた憎悪を含む声に利津は言葉とは裏腹に愉しそうに応えた。
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