嫁入り行列が始まるようで。

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言葉を失うとはこのことかと冷静な頭の中で考えながらも、早くなる鼓動に突き動かされて葉子のもとへ歩み寄る。 「やっとさーくんと夫婦(めおと)になれるのね。ずっとこの日を待っていたけど、いざ本番になるとなんだか照れちゃうわね」 「っ、僕も葉子とちゃんと夫婦になれる日をずっと願っていたんだ。僕だけの力じゃ嫁入り行列を行えなかったから……」 どうしても自分に特別な力が無かったため、今まで祝言をあげることが出来なかったという事実は左近の心を苦しめていた。 俯いた左近に近づき彼の両手を握ると、(いと)しそうに目を細めて見つめた葉子は優しい声音で語りかける。 「さーくんは悪くないわ。狐じゃなくても化かす力が無くても、私はさーくんのことを愛してるの。ここだけの話、婚儀が行えず夫婦(めおと)として認めて貰えないというならさーくんと駆け落ちする覚悟だったもの」 「ええっ!? 駆け落ち?!」 茶目っ気たっぷりに小声で耳打ちされた内容に、左近は驚いて目を丸くした。 声音は冗談めかしていたが、儚げな見た目とは裏腹に少々男勝りな葉子の性格を知る左近は、実際にやりそうだと納得してしまう。 しかしよくよく考えてみれば、それほどまでの覚悟を持つほど自分と共に居たいと強く想ってくれている証拠でもある。 左近は相思相愛であることの幸せを噛みしめ、自分より小さく柔らかな葉子の手を強く握り締めた。
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