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予定の時間になり、晴れた空のもとを歩く嫁入り行列にパラパラと小さな雨粒が降り注ぐ。
傘持ちの持つ大きな番傘に雨の落ちる音が響くなか、新郎新婦と親族たちは目的地である神社へと歩を進めた。
行列の歩く道の端には久万山の一族の狸や猫倉の知人の猫又らが人に化けて等間隔に並び、特別な力を使って雨と共に色とりどりの花びらを降らせながら彼らの門出を祝福する。
幻想的な風景に魅せられながら、この粋な計らいを考え実行した二人の満足そうな顔が左近の頭に思い浮かんだ。
神社への道のりは短くないが、多くの者に支えられて天気雨はやむことなく優しく嫁入り行列に降り注ぐ。
時折、隣を歩く葉子と目を合わせて笑みを交わしながら、一歩一歩と確実に足を進めた。
夢にまで見た嫁入り行列を執り行うことの出来た嬉しさに、左近の頬を涙が伝う。
(ありがとう、ありがとうっ……私たちのために手を貸してくれて。祝福してくれて、本当にありがとうございます)
涙を手で拭った左近の肩を軽く叩いた葉子は、前方に見えてきた神社の鳥居の上を驚いたように見つめていた。
また二人の粋な計らいかと思い左近もその視線の先に目を向けると、まさかの存在の登場に目を見開く。
そこには葉子の祖先である白い毛並みの狐の姿と共に、この神社に祀られている女神の宇迦之御魂大神が微笑みを浮かべて見つめていたのだった。
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