それは居酒屋から始まるお話で。

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相手が居ない訳ではない。 左近には生まれた時からの幼馴染みの葉子(ようこ)という可愛い彼女がいた。 物心つく前から共に育ち、兄妹のような存在だった葉子に対して、向けている好意が友達へのそれと違うと自覚したのは高校生になってから。 当時 可愛らしい女の子から美しい女性へと変貌を遂げた葉子は、色恋に沸き立つ学生内で学年問わず有名なマドンナ的存在として注目を集めていた。 そんな葉子への告白現場をたまたま目撃してしまった事から彼女を強く意識し始め、高校卒業前に想いを告げて晴れて恋人同士となったのである。 付き合い始めてから現在まで交際期間は約十年。それ以前からの付き合いも入れれば、周りから熟年夫婦と揶揄されるのも頷けるほど二人の仲も良好だった。 葉子本人からも早めに嫁入りをして左近と家庭を築きたいという想いも告げられている。 左近自身も婚礼の儀を執り行うことに消極的な訳ではない。嫁を迎えるための準備は着々と整えていた。 ただ左近は、人とは違う婚礼行事に頭を悩ませている。 “人間”である左近が愛した葉子は、人間社会に紛れて暮らす“人に化けた狐”なのだ。
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