それは居酒屋から始まるお話で。

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心強い猫倉の存在に背中を押され、左近は悩みの種である婚儀についての話をした。 「ほぉ、じゃあ狐の嫁入りってことかい。めでたいことだが、親族に反対でもされたのかい?」 「いえ、私の実家は葉子の祖先が(つか)える神様を祀っている稲荷神社ですし、昔から家族ぐるみで親しくしていたので事情も知っていて反対もされていません」 「なるほど、それなら天気雨の方かい?」 「そうなんです……代々嫁を迎える婿とその親族が協力して晴れの日に雨を降らせていたらしいのですが、私も親族もみな人間なので雨を降らせる能力なんて無いですし……」 「あぁ、確かにそれは難しいねぇ……彼女の親族に頼む事は出来ないのかい?」 「そういう提案も出していただいたんですが、葉子の親族も昔に比べて少なくなり、婚儀が終わる前に雨が上がってしまう可能性が高いらしくて……私に神通力のような力があれば良かったのですが……」 事情を話し終え、力なく肩を落とした左近は残っていた生温いビールと共にやりきれない思いを飲み込んだ。 幸い、左近の実家である神社と葉子の実家の距離はそこまで遠くない。嫁入り行列が終わるまで人間に無い能力で雨を降らせ続けることが出来ればいいのだ。 猫倉は腕を組んでしばらく考え込むと、名案が思い浮かんだとばかりに笑みを浮かべて左近へ顔を向けた。 「狐嶋さん、このあと少し時間あるかい?」
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