こっちの世・中学生の沙羅

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 すると一人の手が上がった。 「じゃあ、質問してもいいですか」  戸惑った様子の先生は眉間に皺を寄せてわたしを見たから、にっこり笑ってうなづいた。後でいろいろ聞かれるのなら今、ここで話した方がいいだろう。 「どうぞ」 「私は小川加奈と言います。よろしくね」  加奈は背が低めで好奇心に満ちていて目が輝いている。髪は肩につくかつかないかのサラサラおかっぱ。はきはきした口調で聞いてきた。 「記憶がないってどんな感じ? 本当にいじめであんなところに閉じ込められたんですか」  かなり興味の的を得た質問だ。皆の目が好奇心に光った。他の人もそういうことが聞きたかったようだ。 「記憶がないということは、過去の失敗なんかを思い出してクヨクヨしなくて済むのがいいことですが、思い出がないのは寂しいです」  わたしが今、抱えている思い出はこの世とはかけ離れているから夢のようだったともいえる。 「そしてわたし、噂ではいじめで山の中腹の誰もいない神社に埋められたっていわれていますが、一人で迷子になって、夜、心細くて身をかくすためにあそこへ入り込んだのかもって思っています」  その辺りはやはり曖昧にしておく方がいいだろう。わたしは刺客に襲われ、傷を負い、一時的にあの場所にかくまわれた。ところが本能的なのか、こっちへ亀裂を作り、入り込んでしまったのだ。 「あ、もしかしたら宇宙人にさらわれて、全部の記憶を吸い取られてさ、あそこへ降ろされたってこともあり得るぞ」  朱里のすぐ後ろに座っている男の子がそんなことを言った。 「それじゃあ、異次元から来たってこともあるかも」 「ゲームの世界みたいなとこからか?」  後は勝手に想像した声が飛び交う。
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