こっちの世・中学生の沙羅

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 祐奈にまとわりつく闇火花たちの顔がきつく、悪意の炎をメラメラと出し始めた。どうやら祐奈はわたしを攻撃している様子。  おもしろい。受けて立とう。 「そう。母はわたしが生まれてすぐに亡くなり、父は母を殺したわたしを嫌って里子に出したそう」  そういうと教室内の空気が凍った。  さすがの祐奈も驚きの表情をみせる。 「え、あら、篠田さんって記憶がなかったんじゃないの?」 「叔父が教えてくれたのでな。まあ、そんな境遇なのだ。それに今、篠田という医者に引き取られておる。彼女は母の代わりをしてくれてな。だから今の私の苗字は篠田なのだ。本当の両親がいなくても別に困ることはない」  祐奈は青くなっている。まさかそんなふうに返されるとは思っていなかったらしい。やりこめすぎたかもしれない。これから仲良くしてもらうには、この者にも巻かれたほうがよかったのかもしれぬ。 「まあ、そういう事情であった。ご両親がおる、そなたたちをうらやましく思う」  そういって祐奈に笑いかけた。すると凍結していた彼女の顔に赤みがさした。 「ねえ、なんでそんなしゃべり方してんの! あはは、バカみたい」  祐奈の袖からしゃしゃり出てそう言ったのは、佐藤琴音だった。とにかく、わたしに集まった注目を負のものに代えたい様子。 「ねえ、あんたさ、時代劇のお姫様かなんかと勘違いしてんじゃないの? ウケるぅ」 「まあ、よいではないか。なぜかわたしはこういうしゃべり方になってしまうのじゃ。そなたの、もおもしろいがな」  すると琴音が真顔になって黙る。バカにされたと思ったらしい。 「あ、でもさ、みんな同じしゃべり方じゃなくてもいいんじゃないかな。そんなルールってないし」  朱里がそう助け舟をだしてくれた。そのおかげで皆の表情が穏やかになった。 「そうだね。そういうしゃべり方をするのもいいかも。同じようにしゃべりなさいって言われたわけじゃないし」  他のグループの女子がそういう。皆がうなづいた。 「さあ、食べようではないか。せっかくのお弁当が皆の腹の中に入るのを待っておるぞ」  変な言い方になったが皆が大爆笑した。まあ笑われてもいい。なんとなく悪意を食べる闇火花たちの顔が緩んだよう。  それからだ。誰かがわたしのことを時代劇のお姫様みたいだと言ったことからというあだ名がついた。
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