廃神社

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 わたしはもう一度、吉田を見た。そして丁寧に頭を下げた。 「その節は、助けていただきまして誠にありがとう存じます」 「え、いや、ああ、よかったな。こうしてまた会えるとは思ってもみなくて、あはは」  吉田は少し照れたような表情で頭をかいて笑う。  この人を見て、当時の様子が少しわかる気がした。この人ならわたしを必死になって掘り起こし、助けてくれるだろうと。  吉田は、少し高台になっている方面へ足を向けた。わたしたちもその後をついて歩く。  その道は広く整備されて歩きやすい。ここも車が通れるようにアスファルトで舗装されるのだ。 「あん時は、相棒とバイトの学生三人で山道を登ったんだ。中腹にあった古い神社の建物を取り壊すためにね」  吉田が足を止め、その先を指さす。広い平地になっている。 「この辺りはまだ木がいっぱいあって、ちょうど真ん中あたりに神社の建物が残っていた。俺ともう一人は柱や壁の廃材を一輪車に乗せていた。バイトの青年は土の上の板や木を拾って掃除していたんだ。そんな彼が地中に埋まっていた行李を見つけたんだ。中を開けると人形のように眠る君が入っていたってわけ」  もう穴はない。そんな痕跡はどこにもなかった。わたしがタケルと美玖利に引き取られたことにより、事件性はなかったということで、ここはまた工事が再開できることになった。 「いまだにここを重機でならす時、ひやひやする。怖いよ。また別の子が埋まってたら傷つけてしまうんじゃないかってね。トラウマになっちまった」  吉田はそう言ってアハハと豪快に笑う。
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