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「ありがとうございます。ここにもうしばらくいてもいいでしょうか」
美玖利がそういうと吉田はクシャリと笑う。
「ああ、いいよ。帰る時、入ってきた柵を閉めて南京錠をかけておいてくれればそれで」
吉田はそう言って背を向けようとした。
「吉田さん、誠にありがとう存じます」
わたしがそういって頭をまた下げた。
「いやいや、当然のことをしたまで。本当に元気になってよかった。あ、そうそう。ここは夜になるとセキュリティーカメラが作動しているからね。会社には、君たちのことはちゃんと報告しておくから」
吉田は手を振り、坂道を降りていった。その背が段々見えなくなった。夕暮れが近い。
わたしはその場に白雪を放つ。まだ小さな白い龍だ。カノジョは、その周辺を動き回り、においをかぎまわる。
「なにか、飛んでます?」と田牧が宙を見つめてつぶやいた。
龍はこちらの世の人には見えないはず。タケルと美玖利はあっちの世から来たから見えている。それでも田牧はその目の前を旋回する白雪を感じられるとはやはり彼女の霊感はすごいと思う。
「やはり田牧さんにはわかるんですね。そのうちに見えるようになるでしょう」
美玖利が苦笑交じりに言うと田牧は怯えた顔をした。そんなものは見たくないという感じで。
白雪は吉田の説明の通り、穴があったらしいその周辺に降り立った。わたしが眠っていたとされるところ。
白雪が感じた思いがわたしへ伝わってくる。
「確かにこちらの世とは違う空間が広がっていた気配はあるが、今は閉じているよう」
そんなわたしの報告にタケルと美玖利が表情をかたくした。
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