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美玖利が意を決したかのように堅い表情で言う。
「あの時、わたくしもここを通ってこちらの世に来たのです。しかし、もう戻れないとは」
「そうであった。そなたもわたしの後を追って来てくれた一人」
「当時の沙羅様が通られた道は多くの妖たちが一斉に駆け込んでおりましたから通り抜けることはそれほど難しくはありませんでした。しかし、こちらに来てから、幽体としての姿のままではそれほど長く存在してはいられなくなりました。妖気の弱いモノたちは次々に姿を消しました」
「え、そうなんですか?」
田牧がそれに意をとなえるような声を出す。きっと彼女にはいろいろな妖が見えたからだろう。
「こちらの世では、目に見えないモノは信じないという人が多い。まあ、田牧さんは別として。妖たちはその姿をさらすことで人々の恐怖や意識を糧として吸い取ることができるのです。それなのに誰も気づいてくれない。気づいたとしてもいるはずがないと思いなおし、気のせいということになる。それで三日ほどで消滅してしまうのです」
「では、先生はどうやってその実態を手に入れたのでしょうか」
その質問に美玖利はにやりと笑う。
「沙羅様の後を追い、病院に入り込みました。沙羅様の血を少しいただいた次第でございます。検査のために採血をされておりましたので」
美玖利は、無断でそのようなことを申し訳ございませんと頭を下げた。
合点がいった。美玖利があちらの世の姿のままでいることに今まで何の疑問もわかなかったが、そうした経緯があったとは。
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