廃神社

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「その後は沙羅様のお近くにいたいがため、病院の医師としてもぐりこみました。元からいた医者と周囲を思わせることはそれほど難しいことではございませんでした」  美玖利がそう言うと、田牧は眉間に皺を寄せて睨んでいた。彼女はそれに気づいていたらしい。  わたしたちはまだその場にとどまった。ここしかあちらへ帰るところはないのだ。  少しでもあちらの世からなにかが洩れてはこないか探ぐっていた時だった。そんな静けさの中、田牧の腹がグウと鳴り響いた。 「あ、やだ。すみません。このような時に」 「もう帰ろうか。田牧さん、大丈夫。帰ったらすぐに夕飯が食べられるように支度してあるから」  そうタケルが諭すように言う。田牧は真っ赤になっている。  わたしたちはその場から離れ、吉田に言われた通り、頑丈な柵を閉め、そこに南京錠をかけた。  また田牧の運転で家へ戻る。早速、タケルがすき焼き鍋を卓上コンロに乗せた。タレを鍋に注ぎ、煮立たせ、肉を入れ始めた。  まだ、わたしの心はあっちの世のことにあった。どうなっているのか。篠の家、木蓮家、そしてお婆様は。  田牧はうまそうに大きな肉片をほおばる。白い飯ももりもり食べる。見ていてもすがすがしい食べっぷりだった。わたしは鍋の底に沈んでいる味の染みたシラタキが好き。そればかりつついていると田牧が言った。 「あ、今、思い出しましたが、沙羅さんが見つかった日の夜あたりから、ある時間になると時が止まるのです。ほんのわずか数秒ですが、皆さまはお気づきになられましたか?」
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