廃神社

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「え、時が止まる?」  タケルなどは、豆腐を箸でつまみながら目玉が飛び出る寸前のようなドングリ眼で首を振った。ぽとりと豆腐がテーブルに落ちた。  美玖利も意外そうな表情を浮かべた。もちろん、わたしもそういうことには気づいていなかった。 「そうそう、あの黒い塊のもじゃもじゃが見え始めた頃です。夜十一時半になるとほんの数秒、すべてが静止するのです。口が開いたままの人もいれば、物が手から落ちかけてそれが宙で止まっていたり。もちろん、それを見ているわたくしも動けませんので同様ですが。わたくしにはそれが見えている。他の人たちは目が開いていてもその数秒間のことは認識していないようで。なんとも不可解なことなのです」  それはどういうことなのかわからない。  美玖利が眉間に皺をよせて何かを考えていた。そして何かを思いついたかのようにしゃべりだした。 「もしかするとあっちの世からの亀裂が現れるのがその時刻だったのかもしれませぬ。それを沙羅さまが目覚めることで一時的に封じてしまった。それは本能的なこと。それが必要だったからそうなされたということでございましょう。また亀裂を呼び起こせるかもしれませぬ。そうすれば我らはあちらへ帰ることができましょう」 「それじゃあさ、その時刻になったらなにか感じるかもしれない。またあそこへ行ってみよう」  そう言ってタケルは田牧を見た。  田牧は「また運転するんですか」と迷惑そうな表情を向けた。
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