露あがり

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 翌日、店のシャッターが叩かれる音で目が覚める。なにごとかと思い、窓から顔を出すと、おもてに聖が立っていた。 「よう。寝坊して電車乗り遅れた。ちょっとバイク出してくれよ」  こいつはまたおれをパシリに使おうとしているのか。 「しかたないだろ。おれは失恋してかわいそうなんだから」  こいつはおれが不採用になったことを知らないのだろうか。 「っていうか、蓮。おまえ、目が腫れてないか?」 「うるせえ」 「なんだよ。なにかあったのか?」  けろっと言う。だから、おれも適当な返事をする。 「昨日、雨が降ったろ。だから、泣いた。よくドラマとかであるだろ。悲しいときには雨が降るってやつ」 「はあ?」  聖は心底あきれたような声を出す。 「なんだよ、それ。バカじゃねーの」  そう言って、朝の商店街で笑い出す。こいつの失恋は深い痛手にはなっていないらしい。 「おれもそう思うよ」  それは間違いない。人の気持ちと、天気にはなんの相関関係もない。その事実は変わらない。だが、泣きたいときにたまたま雨が降るってこともある。そんなときは、たまには天気のせいにして、雨と一緒に泣いてみるのも悪くない。  そして、その作業が終われば、天気にちなんで心が晴れた気分になるのもいいんじゃないかな。それがおれらの露あがりだ。 「ちょっと待ってろ。今、バイク出す」  今、雨あがりの空はどこまでも青く、人の心に無関心に無限に広がっている。
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