雨も痛みも、栄養に

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 ミクちゃんと同じ学年で、一つ下の海都。  最初から懐いてくれて可愛いと思っていたけど、今になって思えばお調子やで、ちょっと乱暴者。  それでいて、自信家。  私の嫌いな三拍子が、揃ってる。  それでも、嫌いになりきれないのは、いつだって、小さい痛みに気づいてくれるだろうか。  へへっと私に微笑んで見せる海都から、目を逸らすように窓の外へ視線を移す。  バケツをひっくり返したような雨は、いつのまにか、小雨へと変わっていた。 「で、俺考えてきたんすよ」 「なんであんたが仕切ってんのよ」 「だって、天乃先輩が物思いに耽ってるから」 「耽ってません」  置いてけぼりにしてしまった彼とミクちゃんを、確かめる。  二人はお互いを見つめ合って、この話し合いはどうでもいいようだった。  テーブルの下で握りしめた手が、真っ白に染まっていく。  その手を解いたのは、海都の手だった。 「なによ、急に」 「深い、傷になっちゃいますよ」 「これくらいでなるわけないでしょ」  鼻で笑うように返せば、海都は首を横に振る。  そして、悲しそうに眉を顰めた。  私を構う理由がわからない。  私の手を離して、パンパンっと音を鳴らす。  そして、三人の注目を集めた。   「はいはーい!」 「海都うるさーい」 「なんのための話し合いだと思ってるんですかね。いちゃついて」 「ごめんなさーい」  謝る気もあまりないらしく、ミクちゃんは髪の毛をくるくると指で弄ぶ。  そして、間延びした謝罪を続けた。 「だって、関係ない海都いるし?」 「関係なくはないだろ。俺だって同じ部活!」 「そうだけど、ねぇ、ミナト先輩」 「海都が来たのは意外だったけど、あっ、もしかして……天乃と海都」  あなたの口から、その言葉は一番聞きたくなかった。  耳を塞ぎたいのに、手が動かない。  だって、私が、ミナトに恋をしていたことがバレてしまう。  ミナトに一番近いのは、私だって、自惚れていた。  可哀想で、惨めな、私を、見せてしまう。  泣き出したい気持ちを抑えて、海都の真似をしようと手を伸ばす。  止めたのは、海都の意外な言葉だった。 「恋だのでしか、人間関係測れないなんて、先輩はうっすい人間ですね」  嫌悪感に満ちた言葉、音に、ハッとする。  海都が一番ミナトを慕っていたはずなのに。  私が、傷ついた顔をするから、そんなことを言わせてしまった?  また、肥大化した自意識が、ぽつり、ぽつりと、心の中を濡らしていく。
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