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「なんだよ、やけに突っかかるな」
「不誠実な人間、嫌いなんで」
「俺が不誠実って言いたいのか?」
「不誠実以外のなんなんですか。誰彼かまわずちょっかいかけて、一番良さそうな子を彼女にするとか、普通に言っちゃう時点で頭やばいっすよ」
海都の言葉に、私もミクちゃんも呼吸が止まったように黙り込んだ。
どういうことか、わからない。
わからないけど、海都がものすごく怒ってるのはわかる。
くるりと私の方を振り返った海都が、目を吊り上げる。
そして、はっきりと私に向かって、辞めろと言った。
「俺、天乃先輩が嫌だって言っても、退部を勧めます。この部活、まじで腐ってますよ」
海都に言われなくても、そんなことは知ってる。
全員が部活動必須の中、ほとんど活動がない園芸部は大人気だった。
だから、みんなこの部活に入ってる。
この三役は違うと、信じていたけど。
海都も、他の人たちとは違う。
真剣に、野菜を育ててくれていた。
つきんっと胸の奥が、痛む。
私は、腐ってるのを知っていて、それでも、好きだった。
優しくしてくれるミナトが。
いつも、私を見つめてくれるミナトが。
「いい加減にしろよ。みんな部活動やりたくなくても、強制だから楽な園芸部に入ってくれてるんだろ。それを腐ってるとか」
「違いますよ、そういう意味じゃないっす。わからないなら、はっきり言いましょうか?」
止めようとしたミナトに、海都は、バンっと机を叩きつけようとする。
そして、ピタリと手のひらは机の上一センチで止まった。
「女遊びするのは良いっすけど、誠実な人たちを騙して傷つけるのはちげーって言ってるんすよ。優しさに甘えんなク……」
スゥッと消えていく語尾に、つい問いかけてしまう。
「ク?」
「違います、優しさに甘えんなってことだけ言いたかったんす」
ごくんっと唾を飲み干して、海都はいつもの笑顔を見せる。
ところどころ、言葉遣いが悪いのも愛嬌だ。
私のために真剣になってくれてることに、胸の痛みが少しだけ和らぐ。
「ってことで、俺と天乃先輩はやめるんで。二人で決めてください。なんちゃって園芸部の、文化祭の出し物」
海都は、お金をテーブルの上に置く。
そして、私の手を引っ張って急に立ち上がった。
「え?」
「天乃先輩もすっよ。ほら、急いで荷物」
「いやいや、おかしいだろ」
「うるせー。ミナト先輩には、もう何も言わないんで、おつかれっした」
海都に引かれるまま、私は、荷物を引っ張ってテーブルを離れる。
チラチラと振り返れば、二人とも困惑したような顔で、ただ固まっていた。
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