雨も痛みも、栄養に

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 和らいだ雨は、またバケツをひっくり返したように、激しい音を立てて、アスファルトを打ち付ける。  後ろの方では、雷のゴロゴロ音も鳴っていた。 「あー雨止まないっすねぇ」 「ねぇ、辞めてどうするの」 「なにがっすか」 「園芸部」  私は、園芸部が大好きだし。  本当に辞める気なんて、さらさら無い。  でも、こうやって出てこちゃった以上、戻るのは少し気まずい。 「新しく立ち上げれば良いんですよ」 「部活?」 「そうそう、緑化活動部とかでどうっすか」 「中身は一緒じゃない」 「でも、活動内容は厳しくしますよ。毎日水やりに来れる人限定」  海都の言葉に、じゃあ海都は無理じゃん。  そう言いかけて、真剣そうな瞳と目があってしまった。 「これからは行きます」 「全然来なかったのに?」 「すいません。ミク苦手だったんで」 「えー?」  ミクちゃんが、苦手だった?  意外な言葉に、目を丸くすれば、海都は困ったように鼻の頭を掻く。  そして、私の方をを向き直って、迎えのカフェを指差した。 「ちょっとだけ走れますか」 「カフェに行くの?」 「どうして急に来たのか、こんなこと言い出したのか、なんでミクが苦手なのか全部話すんで」  確かに、全部気になる。  それに、今日は文化祭の出し物を決める予定だったから、この後は何の予定も入っていない。  付いていっても、いいかな。  こくんっと頷けば、頭に海都のパーカーが掛けられた。 「こんなんだったら、傘も役に立たないと思うで被っててください」  そう言ったかと思えば、海都はすごい勢いで走り出す。  私より、海都の方が濡れちゃうのに。  優しさのおかげか胸の痛みは、いつのまにか消え去っていた。  海都のパーカーに包まれながら、カフェまで走る。  気づけばまた、雨は小雨に変わり、止みそうなくらい、柔らかい音で地面を濡らしていた。
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