2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
からん、ころんっと、優しい音で迎え入れられたカフェは、落ち着いた雰囲気。
海都とテーブル席に座れば、店員さんにタオルを差し出された。
「大雨予報だったので、用意しておいたんです。ゆっくりしていってくださいね」
人の優しさに、今日は触れてばっかりだ。
ありがたく、濡れた体を拭き取る。
海都は犬のように、わしゃわしゃと頭を拭いていた。
「それで、どうして来たの」
「ミナト先輩と、いい感じだったので、俺諦めようと思ってたんです」
「へ?」
「天乃先輩とミナト先輩付き合ってんのかな、くらい距離感近かったすよ」
自覚はある。
クラスは違えど、真面目に部活に来るのは私と、ミナトくらい。
だから、二人だけで何度も顔を合わせるにつれて、私たちは親しくなったし、毎日のようにメッセージで会話を繰り返していた。
正直、部活帰りにミナトと二人で、ごはんを食べに行くこともあったし、手を繋いだこともある。
だから、私は、付き合ってるような錯覚をしていた。
勝手に、ミナトも私と同じ思いだって、思い込んでいた。
「でも、聞いちゃったんす。園芸部の先輩たちが集まって、どの子なら簡単に落とせるみたいな話してたの」
「それで、ミナトは私だった、と」
海都は私の呟きに、力なく、首を横に振った。
ちょうど頼んでいた、アイスココアが目の前に二つ置かれる。
小さなアイスクリームが乗り、可愛らしいグラスに入っていた。
ちゅーっと吸い込めば、甘さが口の中に広がる。
海都の言葉の続きを、待ちながら、ココアはどんどん減っていく。
「ミナト先輩は、園芸部の女の子全員に声掛けてて。誰にしようかなって言ってました。だから、あの人は、全員に粉かけてたんすよ」
手を繋いだのも。
二人きりでデートしたのも。
メッセージを何往復したのも、私だけじゃなかった。
その事実に、思ったよりも胸は痛まない。
むしろ、器用だなという感想だけが浮かんだ。
「その中で選ばれたのが、ミクちゃんかぁ」
「あいつも誰でも良いんですよ。チヤホヤされたいだけなんで」
「同じクラスだったけ?」
「隣のクラスですけど、常に、二人三人の彼氏当たり前のやつだったんで。友達とかも、傷つけられてて……」
最初のコメントを投稿しよう!