雨も痛みも、栄養に

5/7

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 からん、ころんっと、優しい音で迎え入れられたカフェは、落ち着いた雰囲気。  海都とテーブル席に座れば、店員さんにタオルを差し出された。 「大雨予報だったので、用意しておいたんです。ゆっくりしていってくださいね」  人の優しさに、今日は触れてばっかりだ。  ありがたく、濡れた体を拭き取る。  海都は犬のように、わしゃわしゃと頭を拭いていた。 「それで、どうして来たの」 「ミナト先輩と、いい感じだったので、俺諦めようと思ってたんです」 「へ?」 「天乃先輩とミナト先輩付き合ってんのかな、くらい距離感近かったすよ」  自覚はある。  クラスは違えど、真面目に部活に来るのは私と、ミナトくらい。  だから、二人だけで何度も顔を合わせるにつれて、私たちは親しくなったし、毎日のようにメッセージで会話を繰り返していた。  正直、部活帰りにミナトと二人で、ごはんを食べに行くこともあったし、手を繋いだこともある。  だから、私は、付き合ってるような錯覚をしていた。  勝手に、ミナトも私と同じ思いだって、思い込んでいた。 「でも、聞いちゃったんす。園芸部の先輩たちが集まって、どの子なら簡単に落とせるみたいな話してたの」 「それで、ミナトは私だった、と」  海都は私の呟きに、力なく、首を横に振った。  ちょうど頼んでいた、アイスココアが目の前に二つ置かれる。  小さなアイスクリームが乗り、可愛らしいグラスに入っていた。  ちゅーっと吸い込めば、甘さが口の中に広がる。  海都の言葉の続きを、待ちながら、ココアはどんどん減っていく。 「ミナト先輩は、園芸部の女の子全員に声掛けてて。誰にしようかなって言ってました。だから、あの人は、全員に粉かけてたんすよ」  手を繋いだのも。  二人きりでデートしたのも。  メッセージを何往復したのも、私だけじゃなかった。  その事実に、思ったよりも胸は痛まない。  むしろ、器用だなという感想だけが浮かんだ。 「その中で選ばれたのが、ミクちゃんかぁ」 「あいつも誰でも良いんですよ。チヤホヤされたいだけなんで」 「同じクラスだったけ?」 「隣のクラスですけど、常に、二人三人の彼氏当たり前のやつだったんで。友達とかも、傷つけられてて……」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加