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海都もアイスココアを、ごくごくと飲み込む。
そして、言いづらそうに小さく「俺も」と答えた。
あぁ、と胸のつっかえが取れる。
だから、海都は退部すると言ったし、誠実な人を騙すなって言っていたのか。
騙された側だから。
「俺だけって言われて、勝手に舞い上がって信じ込んで、ミナト先輩の前の前の彼氏の時に、振られました」
「辛かったね」
「全然。天乃先輩が、優しかったから」
そう言えば、と思い返す。
失恋で傷ついた海都と二人きりで、話したことがあった。
その頃はまだミクちゃんは、吹奏楽部に居て、園芸部に来る前だったな。
好きだった人に裏切られていた、と落ち込んでいた海都を励ましたくて、私、何かを言った気がする。
私が何を考えてるのかわかったかのように、海都はぽつりと詩的な言葉を話し始めた。
「雨が降ったら、野菜はよく育つから。悲しみも心の栄養素になるよって」
恥ずかしくなって、顔を背ける。
完全に格好つけてるじゃん、私。
何が心の栄養素になる、だ。
「俺、嬉しかったんですよ。元気出してとか言われるより、悲しいのも必要って言われたの」
「そ、そう」
「それから、俺はずっと天乃先輩を見てました。だから、悲しみもいつかは必要かもしれないけど。こういうことでは傷ついて欲しくなかったから。余計なことして、すいません」
ぺこっと頭を下げた海都に、ふふっと笑ってしまう。
思ったよりも、傷ついてないし、悲しくないのは、海都が私より怒ってくれたからだ。
付き合い出したと聞いた時、涙は出そうになった。
今日だって二人に顔を合わせるのは、しんどかった。
それでも、思ったよりも痛くない。
「全然大丈夫、ちょっとすっきりしちゃった」
「え?」
「海都が、散々二人に言ってくれたからかなぁ。私だったら、多分言えずに、気を遣って終わったし」
本心だった。
私は多分、いちゃいちゃする二人に、苛立ちながらも、付き合い始めだしと、我慢していたと思う。
そして、出し物はほとんど私が決めて、活動するのも、ほとんど私になっていただろう。
だから、ちょっとだけ、あの二人の固まった気まずそうな表情を思い出すと、心が晴れていく。
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