雨も痛みも、栄養に

7/7

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 つい口元が、緩む。  私も大概性格が悪いなと、思ってしまった。   「好きです。あ……」  言うつもりもなかったのに、と頬に書かれた文字に、また、口元は緩む。  答えるかどうかはまだ分からないけど、純粋に嬉しかった。 「あ、晴れましたねぇ。虹出てますよー!」  店員さんの言葉に、窓ガラスを見つめた。  大きな虹が、空に向かってかかっている。  キラキラと光を反射しながら、虹を見てスマホを構えればインカメラになっていたようだ。  映り込む私と、同じ目をした海都。  海都となら、悲しみも乗り越えられる気がする。  失恋したばかりなのに単純な自分を、軽く笑ってから、海都の方に向き直す。 「考えさせてください」 「いくらでも、待ちます。振られても、それを栄養にイイ男になるんで」  かっこつけた海都の顔に、不覚にもときめいた。  私が落ちていくのも、案外遠くない気がする。  海都も分かってるのか、最後のココアを飲み干してから、ニヤリと笑った。 「天乃先輩の心の栄養剤になりますよ。痛みとか、悲しみじゃない」 「かっこつけんな」 「案外悪くないって顔してますけどね」  図星な言葉に、顔を逸らして、ココアを飲み干す。  雨が止んだ空を指さして、海都が呟く。 「晴れたんで、デートでもどうですか」 「新しく作る部活のことも話したいから、いいよ」 「よっしゃあ」 「どこ行こっか?」 「苗でも見に行きます? 俺、とうもろこしがいいっす!」  嬉しそうに微笑んだ海都の笑顔は、太陽みたいにキラキラと輝いていた。 <了>
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加