雨も痛みも、栄養に

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 胸の痛みを、無視した。  私だって好きだったのに。  彼は私より後に現れた、後輩を選んだ。  その事実を無視しようと、窓の外へと目を移す。  土砂降りの中、走ってきた彼が見えた。  ファミレスの大きな窓ガラスは、見たくないものまで見えてしまう大きさだ。  二人で相合傘をしながら、愛おしそうに見つめ合う幸せそうなカップル。  純粋にそう思って、悲しみだけが頭を埋め尽くす。 「ごめん、待たせた」  彼女を庇うために、びしょ濡れにした右肩を隠しもしない彼。  ため息が出そうになって、ただ、首を横に振る。  全然、待ってないよ。  そう伝えるのは、嫌だった。 「先輩、お待たせしました」  びしょ濡れの彼の右肩とは違い、後輩のミクちゃんはどこも濡れていない。  彼が庇ってきたことが、ますます明確になって、ぐっと唇を噛み締めた。  伝えなかった、私が悪い。  悔しがる権利も、悲しがる理由もない。  だって、二人はどこからどう見ても相思相愛で、お似合いだ。 「じゃあ、早く決めちゃおう」  私たちは、文化祭の出し物を決めるために今日集まった。  最初は部活の三役、私たち三人だけの予定だったのに。  始めようとした私の前に、手を振る四人目。 「ひっど! 絶対俺のこと見えてましたよね!」 「なんで、きたの」  突き放すように、言葉にする。  海都は気にも止めず、私の隣に当たり前のように座った。  そして、私の耳に口を近づける。 「ニ対一は、さすがに、ねぇ?」
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