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◇◆◆◇ ある夜、懇親会で某ホテルのパーティー会場に集まった。 組長、若頭クラスばかりの集まりだが、皆幹部を数名連れている。 立食パーティーなので、各自好きな物を飲み食いしているが、徳真会の組長、畑中がこっちにやってきた。 「おう香田、景気はどうだ?」 俺は親父のそばで頭をさげたが、畑中は俺をチラ見して親父に話しかけた。 徳真会は中堅どころの組で、うちと同等の立場にあるが、最近シマを広げつつある。 下手をすれば、目の上のたんこぶになりかねない。 「まぁまぁだな、最近は派手な真似はできねー、目立たねーようにやるのは大変だ」 親父もそれはわかっているが、表向き愛想良く答える。 「はははっ、ま、お互い上手くやろうぜ」 畑中はわざとらしく笑って言うと、片手をあげて立ち去った。 「おやっさん、あの御仁は侮れないっす、うちのシマにチンピラを放ってきました」 俺には補佐がついてるのだが、その若頭補佐、栗栖が小声で親父に言ってきた。 「そうか、ああ、油断したら寝首を掻かれるな」 「で、そのチンピラですが、うちのもんが声をかけたら喧嘩をふっかけてくる事もなかったらしく、白々しく『たまたま遊びに来ただけだ』と言ったらしいですが、恐らく偵察しに来たんじゃないかと」 「うむ、うちのシマを狙ってるとしたら、先々ただじゃ済まなくなる、その調子で監視を怠るな」 「へい」 栗栖は優秀だ。 常に先を読んで動いている。 年は俺より5つ年上で今年37になる。 パーティーは滞りなく終了し、帰りの車中、俺は親父と後ろの座席に乗っていた。 車を運転しているのは栗栖ではなく、別の幹部で、栗栖は助手席に座っている。 「付き合いも面倒なものだな、なあ圭吾」 親父は愚痴めいた事を言う。 「はい、そうですね、面倒な上に金がかかる」 「ああ、たんまり会費をとってるからな、ま、俺らは上には逆らえねー、仕方がねぇな」 「ええ、はい」 どこの世界も付き合いはある。 この稼業も例外ではないが、上下関係が厳しいだけに、上の采配ひとつで状況は色々と変化する。 俺は親父の屋敷に住んでいるので、このまま親父と帰宅する事になる。 部屋住みを含めたら、もう随分長い事親父の屋敷にいる事になるが……。 最初のうちはあの趣味について全く知らなかった。 親父は前若頭と2人きりで、時折自分の座敷に閉じこもっていたが、俺はてっきり重要な話でもしているのかと思っていた。 それが……まさかあんな事をしているとは。 そんな事、想像すらしなかった。 なんせ親父も前若頭も、ガタイ良しな強面だ。 その親父が女装下着ショー。 それもびっくりしたが、前若頭は親父を抱いてたんじゃないか? 若頭として組にいた時は、そんな事は露ほども感じさせなかったが、親父はあの調子で迫ったに違いなく、嫌々やっていたんだろう。 俺は全若頭のように、親父の趣味のせいで指を詰めてまでやめるつもりはないが、あの趣味に付き合うのはキツいものがある。 ひとりでそんな事を考えながら窓の外を眺めていると、不意に手を握られた。 一瞬ギョッとしたが、騒ぐ訳にはいかない。 前の2人に気づかれたらマズいので、何気なく手を引いた。 だが、親父はギュッと握り締めて離さない。 「ッ……」 たまりかねて親父を見たら、ニヤリと笑った。 俺が焦るのをわかっていて、わざとやっている。 つくづく悪趣味な人だと思ったが、こういう場でやるのは反則だ。 俺はちょっとイラッときて何度か手を外そうと試みた。 だが、親父は意地でも離そうとしない。 「……のっ」 地味に引っ張りあいになった。 「ん? 若、なにをなさってるんです?」 栗栖が異変に気づいて聞いてきた。 「いや……、なんでもない」 手を止め、冷や汗をかきながら返した。 「ふっ……」 親父は意地悪くニヤついている。 悔しいが、仕方がないので諦めてそのままじっとしていた。 屋敷に到着したら車は門の前に止まり、俺と親父、栗栖の3人で車を降りた。 「あの、それじゃ俺はこれで失礼します」 栗栖は多忙なので俺らに頭を下げて立ち去った。 親父は玄関に向かって歩き出し、俺も後に続いたが、ひとこと言わなきゃ気が済まない。 「おやっさん……、さっきみたいなのは……マズいっす」 「くっくっ……、本気で焦ってたな」 「笑い事じゃないっすよ」 俺はああいう事をされる事自体抵抗があるが、他の人間がいる時にやられるのは困る。 「ああ、確かに……斎藤との事も皆には秘密だった、わしはあの趣味を知られるわけにはいかん、だからお前との事も秘密だ」 「だったら……迂闊な事はやらない方がいいっすよ」 「お前がおたおたしなけりゃいい、手を握る位、夜ならわかりゃしねぇ」 けれど、親父は耳を貸そうとしない。 「そりゃそうですが……」 「まぁ、いいじゃねーか、風呂に入るから、背中を流せ」 「風呂っすか?」 なにやら危うい予感がしてきた。 「なんだ、たかが風呂位、お前、昔は兄貴分の背中を流してたじゃねーか」 そりゃ下っ端の時はたまにやってたが、親父は……絶対なにかやらかしそうだ。 断りたいが、断れない。 「……わかりました」 返事を返し、親父の後について屋敷に入った。 居間に入ってソファーに座ったが、隣に座るように言われた。 「じゃ、失礼して……」 親父について行くと決めた以上、たとえイバラの道でも、共に歩まねばならない。 「明日は別行動だな、お前は叔父貴に挨拶だ」 「はい」 「あいつは酒飲みの癖に甘いもんが好きだ、あそこの饅頭屋でなにか買って行け」 「はい、わかりました」 叔父貴は70を過ぎているし、饅頭が好きだ。 よく行く近所の和菓子屋に寄ろう。 「失礼します」 ドアをノックする音がして誰かが声をかけてきたが、この声は栗栖だ。 栗栖はある件で他所の組に電話をかけていた筈だが、もう終わったらしい。 「おう、入れ」 「はい、失礼します」 親父が声をかけると、栗栖は頭を下げて部屋に入ってきた。 それから俺と親父の向かい側に遠慮がちに座る。 「邪魔してすんません」 「おお栗栖、今からな、風呂に入る、一緒にどうだ?」 えっ……? 親父は耳を疑うようなことを言った。 てっきり俺と2人きりで風呂場に行き、いかがわしい真似をすると踏んでいたが、栗栖を誘うって事は違うらしい。 「あ、いえ……、背中ならいくらでも流しますが、おふたり一緒なんですよね? 俺がいたらお邪魔でしょうから」 栗栖は変に気を使っている。 「別に構わねぇ、ね、そうですよね、おやっさん」 栗栖がいた方が安全だし、俺は内心必死になって親父に言った。 「おお、構うこたぁねー、久しぶりにお前の墨を拝みてぇしな」 親父はすんなり乗ってくれたので、俺はこっそりとホッとしていた。 栗栖は全身に墨を入れている。 だから常にネクタイを欠かさないのだが、背中を陣取る絵柄は、見事に描かれた鳳凰だ。 額は灰黒色にしているので、渋い背景の中に青い鳳凰が浮かび上がる。 「わかりました、じゃ、おふたりの背中を流させて頂きます」 栗栖がOKし、3人で風呂に入る事になった。 脱衣場で服を脱いで浴室に入ると、中は広く、浴槽は洋式でジャグジー付きのデカい風呂だ。 先にざっと洗い流し、親父と並んで椅子に座ると、栗栖が泡立てたスポンジを持って背中側に回ってきた。 「失礼します、おやっさんからやりますね」 「おお、お前の墨はいつ見ても迫力あるな」 親父は栗栖の墨を褒めたが、俺もそう思っている。 「そうっすか? へへっ、ありがとうございます」 栗栖は照れたように礼を言ったが、俺はその間にシャンプーをする事にした。 親父と栗栖は楽しげに話をしていたが、黙々と頭を洗っていった。 やがて栗栖は親父の背中を流し終え、俺の方へやってきたが、俺はちょうど頭をゆすいだ後だったので、タイミングぴったしだ。 「若、失礼しますね」 「ああ」 「よし、じゃ、わしは風呂に浸かるか」 湯は自動で張るようになっているので、親父はシャワーを浴びて湯に浸かった。 その後、栗栖が俺の背中を流し終わり、栗栖もざっと洗った後で3人で湯に浸かったが、広いから余裕で浸かれる。 「栗栖、もっとこっちに来い」 親父は手招きして栗栖を呼んだ。 あれ? っと思った。 俺を差し置いて呼ぶのは、ちょっと肩透かしを食らった気分だ。 「お~、近くで見たら尚更いいな、ちょっと背中を見せろ」 「はい」 「うーん、いい出来だ、やっぱり腕の立つ彫り師に限るな」 「そうっすね、こればっかりはやり直しはきかないんで」 栗栖は背中を撫で回されているが、特に気にしてないようだ。 「お前、いくつになった?」 「37になりました」 「ほお~、脂が乗る頃だな」 親父はわきの辺りから腰まで、好き放題に触りまくっているが、栗栖はされるがままに任せている。 「脂っすか? いえ……俺なんかまだまだっすよ」 むしろ、褒められて嬉しそうだ。 それから後、2人は俺を無視してイチャコラやっていた。 いや、ただ話をしていただけなのだが、俺にはそう見えた。 親父も何を考えてるのか。 俺にあんな真似をしておきながら、栗栖を風呂に誘って2人で楽しく会話……。 だったら、栗栖と2人で入ればいい。 たかがこんな事で不貞腐れてるわけじゃないが、ちょっと呆れて先に風呂を出る事にした。 声をかけたら親父は返事をしたが、気にとめる様子はない。 さっさと外に出て体を拭い、服を着た。 親父と栗栖は暫く経って風呂から出てきたが、栗栖はこれからケツ持ちしてる風俗店に行かなきゃならないので、挨拶してすぐに出て行った。 居間で親父と2人きりになり、何となく話しづらいので黙っていた。 「圭吾、どうして先に出た」 すると、親父が話しかけてきたが、今頃になって風呂の事を聞いてくる。 「栗栖と2人で盛り上がっていたようなので、お邪魔かと思いまして」 あくまでも敬語だが、俺はそのまんま言った。 「あいつの墨を見ていたんだ、お前はずっと黙ってたじゃないか」 俺が悪いように言われても困る。 「さっき申し上げた通り、お邪魔になると思ったんです」 同じ事を言った。 「まったく……、しょうがねぇ奴だな、まぁいい、お前、今夜はわしの座敷で寝ろ」 しかし、親父はいきなり大胆な事を命じてくる。 ちょっと待て……この流れで何故そうなる!? 「えっ……いや……」 「なに驚いてる、こないだの続きだ」 続き……。 「は、はい……」 一応、覚悟はしていたが……。 とはいえ、どデカい不安と……ホモというキーワードに嫌悪感をおぼえる。 「わしは準備をしておく、お前もパジャマに着替えてこい」 「わかりました……」 けれど、これも俺に課せられた役目だ。 先代の若頭みたいにヘタレてたまるか。 俺は腹をくくって一旦自分の部屋に戻った。 「はあ~……」 俺の部屋は親父が与えてくれた。 本当なら自立してもいいのだが、親父の厚意に甘えてここにとどまる事にした。 俺はそれをありがたく思っていたが、今となっては微妙な心境になる。 部屋は洋間になっていて、大きな家具はベッドにローテーブル、あとは棚やら何やら……そんなものだ。 それにしても、気が重い。 親父は組長としては慕っているが、寝るとなると話は別だ。 しかも俺が抱く側……。 当たり前だが、女とは訳が違う。 違う上に格下の俺が親父を……って言うのが、どこかひっかかる。 掘りたくねぇけど、ほんとに掘っちまっていいのか? 親父は自分でネコだと言ったくらいだし、それとこれとは別で、そこに関しては上下関係は絡んじゃいない……多分、そうなんだろう。 パジャマに着替えて親父の座敷に向かった。 声をかけ、頭を下げて中に入ると……既に布団が敷かれていたが、親父は布団に入って座っている。 それはいいが、ちゃっかり女物の下着を装着していた。 フリフリレースのついたやつだが、頼むからそれはやめて欲しかった。 「早く来い」 だが、文句は言えない。 「はい」 手招きされて布団に入り、親父と並んで座った。 「圭吾、わしが何故お前だけ名前で呼んでると思う?」 「っと……、どうしてですか?」 俺は部屋住みになった直後から名前で呼ばれていた。 「わしはな、お前がまだ下っ端だった時から目をつけていた、だから、お前は初めから名前で呼んだ」 親父は説明してくれたが、俺に目をかけてくれてたのは嬉しい。 けど……『そういう意味で』となると、正直あんまり嬉しくねぇ。 「そうっすか……、それはどうも、ありがとうございます」 何はともあれ、礼は言わなきゃ駄目だ。 「斎藤がいたからな、それで手を出さなかったが、あいつはわしの元から離れていった、可愛がってやったのに、残念な男だ」 前若頭は最終的には白旗をあげたが、よく耐えたものだと思う。 そっちのけがない人間にとっては……苦行どころの騒ぎじゃない。 「それじゃやるか」 親父は腰に手を回してきたが、さあ、次になにをするつもりなのか。 やっぱやりたくねぇ、今すぐ逃げ出したい俺がいる。 「圭吾よ、この下着、どう思う?」 親父は女みてぇに俺にしなだれかかり、上目遣いで聞いてくる。 そんな女々しい仕草は見たくなかったが、やっぱりネコっていうのがあるのか? なんとなくカマ臭くなってきた。 「いいと思います」 超絶笑える格好だとしても、否定的な事を言える筈がない。 「そうか、わしはどうもいかん、この手の下着が好きでな、女房はわしの趣味に気づいてよそよそしくなった、それが離婚の原因だ」 姐さんは若頭が辞める少し前に離婚して出て行ったが、当然の結果だろう。 「そうでしたか……」 親父の事を気の毒だと思いたいが、同情出来ない自分がいる。 「圭吾、初めてじゃやる気にならんだろう、わしが勃たせてやる」 親父は股間を弄ってきたが、勢いよくバサッと掛け布団をはぐり、俺のズボンと下着をずらしにかかった。 これはもしや……フェラするつもりなんじゃ? そう思って驚愕していると、下半身が晒されちまった。 親父はそのまま横から屈み込んでくる。 「ち、ちょっと待って下さい」 そんな事を男とやるのは抵抗あるが、親父だから余計に抵抗を感じる。 「心配するな、わしに任せろ」 親父は戸惑う俺を後目に、萎えたナニをパクリといってしまった。 「うっ……」 口の中の熱くぬめる感触に、体が硬直した。 親父はいきなり深く咥え込み、腰の辺りがゾクゾクし始めた。 ナニは意思とは無関係に反応し、先端が喉の突き当たりまでいってるが、これはディープスロートじゃ? 風俗嬢でも、ディープスロートができるのは僅かしかいない。 さすが親父だと言いたいが、素直に行為にのめり込めない。 し、しかし……これはキツい、喉輪締めが強烈だ。 「お、おやっさん……、ヤバい、出ちまいます」 堪らず訴えた。 「おお……、ちょいと夢中になっちまったぜ、へへっ、斎藤が居なくなって久々だからな」 親父はナニを口から出してむくっと起き上り、ニンマリと笑ったが、俺はやっぱり気になる。 「あの……こんな事やって貰って、いいんすか?」 「んな事気にするな、わしがやりたいからやってるんだ」 親父がやりたいからヤル……。 「あ、はい……」 それを言われたら、なにも返せない。 「圭吾、みろ、勃っただろ?」 「は、はい……」 そりゃディープスロートなんかされた日にゃ、嫌でも勃っちまう。 「じゃ、早速やってくれ」 「や、やるって……、掘るんすか?」 い、いよいよだ。 恐ろしい事が現実になろうとしている。 「おお、あのな、ローションを仕込まにゃならん、ちょい待て」 「あ……、は、はい……」 親父はわきに置いたローションをとり、手のひらに液体を出した。 じっと見ていると、パンティの中に手を突っ込んでケツにそれを塗り始めた。 ブラなんか大胸筋があるだけに、それなりに胸肉がおさまって膨らんでいるが、なんせフリフリつきの下着だ。 その格好でアナルにローションをぬりぬり……。 逞しい二の腕や肩は、鍛えられた筋肉が浮き上がっている。 常軌を逸した光景だ。 「ようし、できた、圭吾、四つん這いがよかろう、やりやすいからな」 親父はローションを仕込み終わり、四つん這いになってケツを向けてくる。 「ブッ……」 フリフリパンティがケツに食い込むのを見たら、つい吹き出しそうになったが……全力で堪えた。 つか、やべぇ、ナニが萎えてきちまった。 早いとこ入れなきゃ、できなくなる。 素早く全裸になり、膝をついてバックの体勢をとってパンティをずらしていった。 「クッ……」 どうしても笑いが込み上げてくるが、パンティをずらしてみると、アナルはヘアー無しでツルツルだった。 多分、手入れしてるんだと思うが、一見むさ苦しい親父でも、そういう部分はきっちりしているらしい。 『へえ~』と、感心してる場合じゃなく、はやいとこ入れちまおう。 萎えかけた竿を扱き、無理矢理勃たせて親父のソコにあてがった。 俺のナニが……アナルを初体験する。 俄に緊張したが、『ええい!』と気合いを入れて突っ込んだ。 「おお~っ!」 親父は背中を強ばらせて咆哮を上げた。 「あっ、ちょっと強すぎました? すみません」 アナルの感触を味わうどころじゃない、相手が相手だけにやっぱ気を使う。 「い、いや、いい、堪らん、その調子でやってくれ」 なんだか知らないが、逆に喜んでいるようだ。 「あの痛かったら言ってください、それじゃいきますよ」 俺は気を取り直して腰を動かしていった。 ナニはというと、ローションのお陰でスムーズに出入りしている。 少し気持ちが落ち着いたので、アナルの感触を確かめてみたが、主に根元を締め付けられるような感触だ。 中は女とそんなに変わらないように思えるが、若干緩いような気がする。 にしても、親父は突くたびに呻いている。 「ふっ、うっ、ううっ!」 『アン、アン』言われたらドン引きだが、いくら女装趣味があるとは言っても、親父はカマにはなってはいないようだ。 苦悶して呻き、感じている。 なんだか俺まで気持ちよくなってきた。 俺は今、親父を支配しているようなものだ。 そう思ったら、やる気が出てきてリズミカルに突き上げていった。 「け、圭吾……」 夢中でやっていると、親父が声をかけてきた。 「はい、なんすか?」 「あのな、前立腺を狙え」 親父は難しい事を言う。 「前立腺って、なんすか?」 動きをとめて聞いた。 「ちょうどナニが生えてる辺りだ、そこを突け」 ナニが生えてる辺りといえば、下向きになる。 「あの~、ちょっとやりにくいっす」 「じゃあな、正常位だ、わしが仰向けになる」 正常位で仰向け……これは若干やりにくくなった。 バックのままがよかったんだが……。 正常位だと顔をまともに拝む羽目になる。 「わかりました」 けれど、ここまでやってしまったら後には引けねぇ 気合いを入れて正常位でもう一度合体した。 そしたら、案の定親父と向かい合う羽目になり、バツが悪くてしょうがねぇ。 こういう時、どんな顔をしたらいいんだ? 目のやり場に困り、俺は目を閉じて動いた。 「圭吾、なに目ぇ瞑ってる」 「すみません……、おやっさんを抱くとか、なんか……俺」 複雑怪奇な新境だし、とてもじゃないが現実を受け止めるのは厳しい。 「遠慮はいらん、ほら、きな」 「あ……」 首の後ろに手を回され、キスされた。 髭のざらつく感じが嫌だったが、親父の中は気持ちいい。 目を瞑り、ナニが包み込まれる感触を感じていると、段々昂ってきた。 自然と腰が動いていたが、親父は不意にキスをやめた。 「そこじゃない、もっと上だ」 なにかと思えば注文をつけてくる。 「っと……、こうっすか?」 上側を突くように意識してやってみた。 「違う、もう少し浅く……、言っただろ? ナニが生えてる辺りだ」 ナニが生えてる辺りと言われても、初めてでよくわからない。 「は、はい、わかりました」 でもやるしかない。 浅めに突いていった。 「あっ、おっ、おお……、一応当たるが、狙いが定まってないな」 そんな不満げに言われても、初心者だから無理なんだが……。 「すんません……」 やっぱり謝るしかない。 自分なりに狙いを定めて一生懸命動いてみた。 「ああ、ちょっとずつよくなってる、ま、お前は初めてだからな」 親父は俺の頬に手を添えて言ったが、俺はもうイキそうになってきた。 「あの、俺……イキそうなんすけど」 「そうか、このままいっていいぞ」 承諾を得たのでいかせて貰う事にした。 ラストスパートをかけたら、親父は眉間に皺を寄せて呻いたが、痛かったら文句を言う筈だ。 大丈夫そうなので、そのまま最後までいかせて貰った。 「う……」 相手が親父だという事を考えねぇようにすれば、女とやるのと大差なく、普通に気持ちいい。 快感の波がおさまるまで、親父にかぶさって全部出し切った。 「圭吾……、これでお前もこっちの世界に足を踏み入れたな」 親父は背中を抱いて言ってきた。 改めて言われると抵抗はあったが、事実なんだからしょうがない。 「はい……」 「まぁ、まだまだだが、わしが指導する」 親父はまだヤルつもりらしいが……。 「はい」 俺は一途に従うしかない。 「よしよし、お前とは馬が合う」 親父は俺の事をお気に召したようだ。 「はい、ありがとうございます」 こうなっちまった以上、開き直って気に入られるしかない。 その後は体を離し、後始末を済ませてパジャマを着た。 俺はシャワーを浴びに行きたかったので、それを親父に言うと、親父は浴び終わったら座敷に戻って来いと言う。 『わかりました』と言って風呂場に向かったら、途中で部屋住みの若い衆とすれ違ったが、向こうは頭を下げ、俺は何食わぬ顔で通り過ぎた。 シャワーを浴びてすっきりした後、再び親父の座敷に戻った。 座敷に入ると、親父はガウンを羽織ってタバコを吹かしていた。 「おお、ここに座れ」 手招きされたのでそばに行って座った。 「お前も一服しろ」 親父はタバコを差し出してくる。 「はい、じゃ、頂きます」 頭を下げて1本箱から抜き、火をつけてタバコを吸った。 「どうだ、初めての感想は」 親父は煙を吐き出しながら聞いてくる。 「あ、はい……、その……良かったっす」 決して再びやりたいわけじゃないが、そう言うしかない。 「そうか、ふっ……、わしも悪くなかったぞ、圭吾、こないだも言ったがこの事は誰にも話すなよ」 「はい」 言われなくとも、こんな事、絶対誰にも知られたくない。 「しかしな~、わしは栗栖にも興味がある、奴をモノにしたい」 ところが、親父は突然栗栖の事を言い出した。 「栗栖はそういう趣味は全くないように見えますが……、ちょっと無理なんじゃ」 風呂場でやけに触っていたのは、やっぱりそういう事だったようだ。 モノにしたいと簡単に言われても……栗栖は以前一緒にニューハーフパブに行った時、ニューハーフが来ても全く相手にしなかった。 男には興味がなさそうに思える。 「奴のナニを見たか?」 「いいえ」 そんなとこ、いちいち見ねぇ。 「なかなか立派なモノを持っていたぞ」 「え……、そうっすか」 ……って事は、俺は栗栖に劣るって事か? 地味にショックだ。 「なんだ、気になるか、へへっ、圭吾、お前は初めてにしちゃ上出来だった、しかしな……栗栖のアレはデカい」 親父は一応俺を立ててくれたが、栗栖のナニに惹かれちまったらしい。 「いや、けど……、モノにすると言っても、そっちのけがないのに、下着ショーを見せるんすか?」 俺は前若頭の代わりにこうなったが、栗栖は無関係だし、そうやたらと性癖を暴露するわけにはいかないだろう。 「それはまぁ、上手くいけばの話だな、圭吾、わしと特別な仲になったお前に課題を与えてやる、栗栖を落とせ」 なのに、親父は俺に栗栖を落とせと言い出した。 俺はたった今初体験したばかりだ。 それで栗栖を落とすとか……そんな無茶な……。 「ちょっと待ってください、俺はさっき初めてやったんす、そんな俺に栗栖を落とすとか、それはいくらなんでも無理だと思います」 俺は男に惚れた事もないし、親父の命令でやっただけだ。 できるわけがない。 「いいや、お前にはいい勉強になる、お前は立場が上だからな、栗栖は抗えねぇ、それを上手く使え」 「えぇ……、そんな……」 パワハラ+セクハラをやれという事か。 俺は栗栖にそんな真似をしたくない。 「おやっさん……、頼んます、俺は栗栖の事をできる奴だと思ってるし、栗栖だって一生懸命シノギを稼いでます、そんな奴に手ぇ出すとか、俺には出来ません」 親父の真ん前で土下座して断った。 「ふっふっ、そうかたく考えるな、期間は1ヶ月、失敗したら指を詰めろ」 「ええっ……!?」 そこまで言うか? そんなつまらねぇ事で指を失うのはゴメンだ。 自信なんか微塵もないが、こりゃ……やるしかねぇ。 但し、少しばかり言わせて貰いたい。 「わかりました……、ですが、ひと月は短過ぎる、せめて3ヶ月、猶予をください」 「そうだな、じゃ、間をとってふた月だ、2ヶ月もありゃいけるだろ、ふっ、楽しみだ、上手くいったらわしに報告しろ」 「……わかりました」 たった2ヶ月で上手くいくとは思えなかったが、やはりと言うか……俺には親父の我儘に付き合うしか、選択枠はなかった。
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