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◇◆◆◇ 親父は相変わらず、すこぶる元気だ。 栗栖もよく動いてくれる。 秘密を共有する仲になってから、前に増して一生懸命物事に取り組むようになった。 その一方で、徳真会の動きが怪しさを増していた。 うちの幹部と向こうの幹部が揉め事を起こし、俺が向こうの若頭と話し合いをする事になった。 若頭は武田という男だ。 小柄な体格をしているが、なかなか小賢しい奴だ。 事務所にいると聞き、早速相手方に連絡を入れた。 昼飯を済ませた午後、栗栖の運転で相手方の事務所に出向いた。 車を駐車場に止めたら、栗栖と共に事務所に向かった。 インターホンを鳴らすと『どちら様ですか?』と応答があったが、監視カメラを見ればわかる筈だ。 イラッときたが、穏便に話し合いをしなければならない。 組と名を名乗ったらドアが開いた。 「どうぞ、こちらへ」 事務所番の下っ端が頭を下げて案内する。 俺が先に立って歩き、応接セットが置いてある場所に通され、ソファーに座るように促された。 栗栖は俺の隣にやって来て共にソファーに座ったが、それと同時に奥のドアが開き、若頭の武田がこっちにやって来た。 「おう鷲尾さん、よく来たな」 武田はわざとらしい笑みを浮かべて言うと、テーブルを挟んで俺達の向かい側に座った。 今回の揉め事は徳真会に非がある。 だから、俺は菓子折りなんかなしでやってきた。 「ああ、で、うちのがお宅の幹部を殴った件だが……、ありゃうちのシマだ、武田さん、はっきり言わせて貰いますが、こりゃどう見ても、お宅の方が悪い」 謝罪するのは徳真会の方だ。 「おお、あれはな、たまたま立ち寄っただけだ、勘違いしたのはお宅の幹部じゃねぇのか?」 だが、うちのせいにしようとしている。 「たまたまと言うが、ここ最近、うちのシマにお宅らの仲間がうろついてる、他所のシマへやってきて喧嘩を売るのが目的なら、こいつはちょいとマズい事になりますぜ」 ここでひくわけにはいかない。 下手に引いたら、ここぞとばかりに『だったらシマを分けろ』と言うだろう。 「ほおー、鷲尾さん、あんたはうちが悪いと仰るのか」 こいつ……よくもぬけぬけと言えるものだ。 「言わなくてもわかっている筈だ、それを踏まえて今回の件について提案する、これはうちとしては相当寛大な妥協案だ、この度の喧嘩は、喧嘩両成敗という事で互いになかった事にする、それでもうちに責任があると言うなら……これまでの友好関係を解消する」 これを機に敵対する事になったとしても、早いか遅いかの違いで、どのみちいずれはこうなる。 「ふっ……、そうか、なるほどな~、わかった、喧嘩両成敗、悪くねぇ、その提案を呑もうじゃねぇか、お前さんがわざわざやって来たんだからな、はははっ!」 武田は高笑いして俺の提案を呑んだ。 「わかってくれたんだな、それならいい、邪魔したな、俺らはこれで退散する」 話がつけば、こんな場所に用はない。 「ちょっと待て」 立ち上がりかけたら、武田が声をかけてきた。 「なんだ」 さっさと帰りたかったが、仕方なく腰をおろした。 「鷲尾さん、今度俺に付き合ってくれませんか? 行きつけのクラブに招待する、美人のママがいるんだ、若い女も美形ばっかしでよりどりみどりだぜ」 何を思ったのか、奴はいきなり俺を誘ってきた。 「いや、悪いが……酒は控えてる」 絶対何か裏がある。 迂闊に乗らない方がいい。 「へえ、どこか具合でも悪いのか?」 「ああ、まあな……」 適当にはぐらかそう。 「だったらよ、酒は無しでもかまわねぇ、な、今週の木曜日だ、お前さんも決まった相手がいねぇなら、いい女をゲットするチャンスだぜ」 女は遊びや付き合いで抱く事もあるが、今は親父の相手をするだけで精一杯だ。 「いや、女は面倒だからな」 けど、どのみち武田絡みの女に興味はねぇ。 「んん、じゃ、ひょっとして……あれか、ウリかニューハーフがいける口か?」 武田は嫌な方向へ話を振る。 「いや……、そういうわけじゃねぇ」 親父や栗栖とそういう仲になったからと言って、ウリで男を買いてぇとは思わねぇ。 「別に隠すこたぁねーぞ、そんなのは普通だ、俺もよ、たまにガキを買うんだぜ、ショタは可愛いぞ」 武田は平然と言ったが、こいつはバイ・セクシャルらしい。 「へぇ、そうなのか……」 「なんだよ、今どき驚く事か? 今は男も売れる時代だ、うちも売り専をやってる、派遣するやつだがな、結構儲かってる、へっ……、金に困った大学生も多いが、借金のカタにやらせる場合もある、こりゃ内緒だが中には未成年のガキもいるんだ、中学生辺りのガキはいいぞ~、売りに出す前に慣らすんだが……、くっくっ、その役は俺がやる、マンションに監禁してよ、たっぷり教え込むんだ、そしたら初めは泣いて嫌がってるが徐々に感じ始める、ま、媚薬は使うんだがな、2週間もすりゃ、自分からケツを突き出してねだるんだぜ、ガキの癖によ~、てめぇからナニをしゃぶって入れてくれとせがむ、そうなりゃ……後は店に出してたんまり稼いで貰う」 うちも親父が売り専をやると言っているが、未成年者を使うつもりはない。 徳真会は悪どい真似をしているようだ。 「そうか、お宅らはいい稼ぎがあっていいな、ただよ、くれぐれもパクられねぇようにしねぇと、淫行でパクられるのはカッコがつかねぇぞ」 下っ端ならいざ知らず、若頭がそんな事で逮捕されたら恥晒しもいいとこだ。 嫌味を込めて言った。 「おお、心配してくれるのか、ああ、大丈夫だ、上手くやってる、お前、噂には聞いたがいい奴だな、な、1度でいい、俺に付き合え」 だが、武田は俺が本気で心配してると勘違いをしたらしい。 「少し考えさせてくれ」 そこまで言われたら、即断わるのはさすがにマズい。 「おお、わかった、じゃ、腹が決まったら連絡しろ、いいとこに招待してやるからよ」 「ああ、わかった」 また連絡をする事にして事務所を出た。 栗栖は余計な事を言わずに黙っていたが、外に出たら俺の方をちらちら見ている。 「なんだ? 何かあるなら言え」 気になってしょうがない。 言いたい事があればハッキリと言えって話だ。 「あの……、差し出がましいとは思いますが、俺は行かない方がいいと思います」 俺にアドバイスしてきたが、それは俺もわかっちゃいる。 「何故だ?」 ただ、俺は栗栖の意見を聞きたい。 「なにか裏があるような気がします、武田さん……というより徳真会ですが、うちのシマを狙ってるのは確かです、そんな組の若頭が……、若、あなたを気前良くご招待とか、それだけで済むでしょうか? 俺はどうもひっかかる」 栗栖も俺と同じで不審に思っているようだ。 「そうか、お前もそう思うか」 「はい、断わるのがよいかと」 「だよな、ま、タイミングを見て断りの連絡を入れるわ」 「ええ、それがいいと思います」 武田に付き合うのはやめた方がいい。 それよりも、一応これで揉め事は解決した。 「栗栖、茶でも飲んで帰るか?」 たまには栗栖と2人でカフェにでも寄ろう。 「いいんすか?」 「ああ、何もまっすぐ屋敷に帰らなくても、どうせまた親父に付き合わされる」 下手に時間が空いたりしたら、絶対親父が何か言ってくるに違いない。 「じゃあ……、行きます! へへっ」 栗栖は張り切って返事をすると、照れたように笑って見せた。
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