竜さん

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 美緒との平穏な日々が続いた。  私と妻の間に娘がいたのではと、勘違いをしてしまいそうな時もある。  そんな中で人食い熊の話を聞いた。  既に三つの集落が潰されたとのこと。討伐隊が組織されたが、返り討ちに遭ってしまったとのこと。  美緒から聞いた通りの話だ。  新たに討伐隊が組織されるなら加わるが、一人で挑む気にはなれなかった。  ただ、その話の中で一つ気にかかるものがあった。  それは、毒矢が効かなかったということ。  毒に対して耐性がある熊なんて聞いたことが無い。  トリカブトの毒に対して抵抗力を持っているのだろうか。それならば、ほかの植物の毒を使えばいいだけだが。  何故、毒に対抗できる身体をもっているのだ。  ふと、前に仕えていた藩主から聞いた話を想い出す。  藩主が食事をする前にその食事を毒見する者がかつてはいた。その者は小さい頃から毒に接しているためか、他の者と比べると毒に対して耐性が出来てしまうとの話を聞いたことがあった。  妻を殺した熊を仕留めた時の事を想い出す。  確か小熊が倒れた母熊に寄り添っていた。母熊の傷口を舐めていたとしたら、毒が身体に回った可能性はある。理由は分からないが、毒に対する耐性が出来てしまったと言う事になる。  私が以前、藩主から聞いた話と理屈は一緒だろう。あの時の小熊が、親の狂暴性を引き継いで大人になったのだ。しかも、毒に耐性のある身体をもって。  私はあの時、怪物をつくり上げてしまったと言う事か。  責任を取らねばならない。  自分の蒔いた種は自分で刈り取らなければならない。  それが、人として生きる道だ。  家の中に入り旅支度を始める。  季節が秋であったこともあり、美緒には冬に備えて町に買い物に行くと嘘をついて、蓑と傘を纏い、人食い熊を退治する旅に出る事にしたのだ。
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