戦い

1/2
前へ
/19ページ
次へ

戦い

 人食い熊は美緒の集落を襲撃した後も、他の集落を襲撃している。幾つかの山を越えたことになる。  次に襲撃をされたのは、美緒の集落から北の方にある集落だ。その間、熊を目撃した人間は特にいない。  山の中を動き、麓の集落を襲撃していることになる。  人間の味を覚えてしまった熊は、また人を襲う。  犠牲者が増える前に仕留めるしかない。しかも、討伐隊を返り討ちにしてしまう、かなり狂暴な熊だ。  新たな討伐隊の組織も難航するだろう。  誰も死にたくはない。名乗り出る者がいないだろう。  その間に、その熊は他の集落を襲う可能性がある。  次の犠牲者を出してはいけない。  それに、私があの時、あの子熊も仕留めておけば、このような事は起こらなかったのだから。  私がやらなければならないのだ。  熊との戦いは何度も経験している。  熊の巣穴を発見することだ。そこで待ち伏せをして仕留める。  巣穴の中で寝てくれていれば、そこを狙い撃ちするが、そんな状況に巡り合えることは滅多にない。  戦いになる。  火縄銃による銃撃で、一発で仕留める。  急所を外せばこっちが終わる。  一瞬で勝負は決するのだ。  山中を歩き回り、熊の足跡を発見する。  取り敢えず、追ってみるしかない。  例の人食い熊かどうか分からないが、確認をしていかなければならない。  獣道を埋め尽くす枯葉を踏みしめて、山の奥へと進んで行く。  道なき道を進むのだ。  熊が決められた道を移動することなんてあり得ない。  足跡を執念深く追い続けるしかないのだ。  後は直感と経験で追う。  熊を退治するには、厳しい鍛練が必要となるのだ。  一朝一夕で身に着く技術ではない。  それにかなりの危険を伴う仕事だ。  常に死と隣り合わせになる。  美緒にこんな事は覚えて欲しくはない。せっかく助かった命は大切にしてもらいたい。人食い熊を私が仕留めれば、美緒は猟師になることは諦めてくれるだろう。  これで良いかな?  返答が無いことは分かっていても、亡き妻に問いかけてしまう。  そんな事を繰り返しながら、かなり山奥まで入り込む。  霞がかかってきた中、巨大な老木が目に入った。  火縄銃を構え、老木に慎重に近づいていく  老木の根元には洞窟のような穴が開いていた。  何か黒い物がモゾモゾと動いている。  間違いない。熊の巣穴だ。  更に近づく。  中に居るのは小熊だ。  何かを食べているような感じだ。  慎重に近づく。  小熊が食べているもの……。  それは、人間だった。  小熊の周りには人骨が散乱している。  人食い熊の巣穴だ。  間違いない。  親熊が集落を襲って人間をここまで運んできたと言う事か。  お前は人間の味を覚えてしまったのか。  成長すれば、人を襲うようになる。  お前を大人にさせる訳にはいかない。  二度と同じ轍を踏むわけにはいかないのだ。  火縄銃の無情な響き。  放たれた弾丸は容赦なく小熊の急所を打ち抜いた。  小熊はピクリとも動かなくなった。  銃の音に親熊が反応するだろう。  必ずここに来る。  予備の弾薬と弾丸も持ってきている。  待ち構えるまでだ。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加