今を生きる

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今を生きる

 竜さんはあの時、私に嘘をついて、人食い熊に一人で戦いを挑んだ。  数日後、人食い熊の死体と一緒に、変わり果てた竜さんに出会う事になった。  涙が枯れ果てるまで、ひたすら泣き続けるしか出来なかった。  大切な人を失う経験を、二度もすることになるとは、思いもよらなかったから。  竜さんの亡骸は、家の裏にある奥さんのお墓に埋葬した。  今でも朝になると両手を合わせている。  竜さんが亡くなった後、私は集落の猟師の人から、銃、弓、罠を学んだ。  竜さんの後を継ぐためだ。  最初は皆から笑われていたけど、何も気にせずにひたすら熱心に取り組み続けていたら、私の事を笑う人はいなくなった。  今では猟に西洋式のライフル銃が使える。  火縄銃と威力が全く違う。 ある程度離れた距離からの射撃でも、獣を倒すことが可能だが、獰猛な獣を相手にする時の危険は一緒だ。  あの時、竜さんは私が気持ちだけ先走って、猟師になると言いだしてしまったから、身をもってこの仕事の危険さを伝えたかったのかもしれないと、時折考えてしまうことがある。  けど!  私はこれからも猟師を続けます。  これからも竜さんと言う強い男の生きた証を語っていくためにも。  想いに耽っていたら、集落の人が血相を変えて私の家にきた。 「美緒姉さん。人食い熊が出た。討伐隊を組織することになった。力を貸してくれ」  私はライフル銃を持ち、了解の返事をする。  人食い熊との戦いは何度も経験をした。  一人で人食い熊を仕留めた事もある。  中には人間との戦い方を知っている熊もいる。  どんな状況下であっても、常に周囲に神経を尖らせていなければならない。  分かっています。  竜さん。  この仕事がどれだけ危険で、死と隣り合わせになることも。  それでも私は続けます。  竜さんと共に自分の生きた証を刻むために!  FIN
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