惨劇

1/4
前へ
/19ページ
次へ

惨劇

 私が生まれたのは小さい村の名の無き集落。貧しい農家の家だった。父と母、弟、四人家族で貧しいながらも農作業に精を出し、真面目に力強く生きていた。  畑の農作物と格闘する日々。  雪に閉ざされてしまう厳しい冬に備えなければならない。  貧しい村にとって、長くて厳しい冬は常に脅威でしかないのだ。  けど、暖かかった。  家族みんなで過ごす時間が楽しかったから。  笑顔の絶えない日々こそが、キラキラと輝いて見えていたから。  だが、そんな日々に終止符を打つ出来事が起こった。  夏が終わり、やたらと短い秋を迎えた夜、何時もの通り、家族で囲炉裏を囲み、和やかな時間を過ごしていた時、不意に重々しくて不快な音が聞こえてくる。  その音はどんどんと大きくなってきて、家の中の空気は不穏なものとなり、父と母の表情は不安に満ち、弟は怯えて私に寄り添ってきた。  入口が一気に破裂したかのように破壊された。  雷が落ちたかのような轟音が響き渡る。  家の中に入ってきた黒い大きな獣。  木の破片が飛び散る。  家族の悲鳴が響く。  囲炉裏の鍋がひっくり返り、辺り一面が湯気と、飛散した灰で、全く見えなくなった。  耳の奥に突き刺さるかのような咆哮。  圧倒的な恐怖に支配されてしまい、身体が全く動かなくなってしまう。  身体が砕けてしまうかのような激しい衝撃。  私は強大な力に弾き飛ばされて、地面に叩きつけられ、意識を失う。  全ては一瞬の出来事だった……。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加