24人が本棚に入れています
本棚に追加
今を生きる
竜さんはあの時、私に嘘をついて、人食い熊に一人で戦いを挑んだ。
数日後、人食い熊の死体と一緒に、変わり果てた竜さんに出会う事になった。
涙が枯れ果てるまで、ひたすら泣き続けるしか出来なかった。
大切な人を失う経験を、二度もすることになるとは、思いもよらなかったから。
竜さんの亡骸は、家の裏にある奥さんのお墓に埋葬した。
今でも朝になると両手を合わせている。
竜さんが亡くなった後、私は集落の猟師の人から、銃、弓、罠を学んだ。
竜さんの後を継ぐためだ。
最初は皆から笑われていたけど、何も気にせずにひたすら熱心に取り組み続けていたら、私の事を笑う人はいなくなった。
今では猟に西洋式のライフル銃が使える。
火縄銃と威力が全く違う。
ある程度離れた距離からの射撃でも、獣を倒すことが可能だが、獰猛な獣を相手にする時の危険は一緒だ。
あの時、竜さんは私が気持ちだけ先走って、猟師になると言いだしてしまったから、身をもってこの仕事の危険さを伝えたかったのかもしれないと、時折考えてしまうことがある。
けど!
私はこれからも猟師を続けます。
これからも竜さんと言う強い男の生きた証を語っていくためにも。
想いに耽っていたら、集落の人が血相を変えて私の家にきた。
「美緒姉さん。人食い熊が出た。討伐隊を組織することになった。力を貸してくれ」
私はライフル銃を持ち、了解の返事をする。
人食い熊との戦いは何度も経験をした。
一人で人食い熊を仕留めた事もある。
中には人間との戦い方を知っている熊もいる。
どんな状況下であっても、常に周囲に神経を尖らせていなければならない。
分かっています。
竜さん。
この仕事がどれだけ危険で、死と隣り合わせになることも。
それでも私は続けます。
竜さんと共に自分の生きた証を刻むために!
FIN
最初のコメントを投稿しよう!