惨劇

3/4
前へ
/19ページ
次へ
 泣き叫び疲れたのか、いつの間にか深い眠りについてしまった。気が付いたのは、隣人の家の中だった。  隣人は家も家族も運よく無事だったので、私を介抱することが出来たらしい。  今回の熊の襲撃で、集落の半分近くの家屋は破壊された。  犠牲者も私の家族だけではなかった。熊の襲撃を受け、酷い怪我をしてしまった人や死んでしまった人もいたし、中には、無残にも食い千切られてしまった人も何人かいたとのことだった。  一頭の獰猛な熊に集落が潰されてしまったようなものだ。  重苦しい空気に包まれた中ではあったが、私は暫く隣人の家でお世話になることになった。  農作物は殆ど無事だったので、私は隣人の家の仕事を手伝うことにした。農家の家に生まれたので、やる事は変わらない。  違う事は、傍に何時もの家族がいないこと。  これと言った言葉を交わす事もなく、ひたすら働き続ける日々。  そんな中で、集落では隣の集落の人の力を借り、討伐隊を組織して、熊を狩る事にしたのだ。  人間の味を覚えてしまった熊は、また人を襲うので、仕留める必要があるとの話だ。  討伐隊に入れて貰いたかったけど、子供の私では話にならない。  彼らがあの熊を倒してくれる事を願って、討伐隊を見送る事しか出来なかった。  数日後、討伐隊が戻って来たが、人数は減っていて、服装はボロボロになり、誰もが表情に悲壮感を漂わせていた。  熊を倒す事は出来なかったのだ。  集まっていたところを不意に背後から襲われ、あっという間に半数近くの人間が熊の餌食になってしまった。  火縄銃や弓で反撃をしたが、全く効果が無かったとのこと。  熊は何処かに走り去り、生き残った人達が帰ってきたのだ。  毒が効かない。軍隊でなければ無理だ。  討伐隊の生き残りの誰もが、力なく口を揃えている。  私はただ、下を向き、身体をブルブルと震わせながら、悔しい想いを噛みしめ続けるしかなかった。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加