惨劇

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 悔しさとぶつけようのない怒りが燻り続ける中、私は囲炉裏を隣人の人達と囲む。 「俺達じゃ、あの熊を倒すのは無理だな」  力を失い、全てを諦めきったような感じで話し出す。 「軍隊さんは来てくれないの」  一縷の望みに縋るかのように聞いてみる。 「ここは北の最果ての地。国は助けてくれないよ」 「こんなにたくさんの人が亡くなっているのに」  答えは返ってこなかった。 「ただ……。竜さんと呼ばれるあの人ならあの熊を仕留める事が出来るかもしれない」  思わず声を出して、身を乗り出そうとしてしまう。 「竜さんって何処にいるんですか。お願いにいきましょうよ」  声が大きくなってしまった。 「落ち着きなさい。竜さんと呼ばれている人は銃の名手で、この集落の先にある山を越えて、更にその先の集落の先の山の中腹辺りに住んでいると聞いた。それに、我々がお願いに行ったところで、引き受けてくれるかどうかは分からないよ」 「そうなんだ」  声が一気に小さくなり、また下を向いてしまう。  話はここで終わってしまったが、竜さんと呼ばれる人の事がしりたくなった。  集落の人達に聞きまわってみた。  住んでいる所やどんな人かを聞いてみたが、ここから北に向かった所にある集落を幾つか超えた先の山の中腹に住んでいて、元は軍人で、一人で人食い熊を退治したことがある人だと教えてくれた。  一人で人食い熊を……。  凄い人だ。  是非、会ってみたい。  お願いを受けてくれるかどうか分からないけど、会って話を聞いてもらえるだけでも構わない。  私の決心は揺らぐことの無いものとなり、その想いは実行へと変貌を遂げた。
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