旅立ち

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 集落に辿り着いた時は、身体には全く力が入らず、全てが抜けきってしまったかのような状態になってしまった。  立っていられない。  物事を考える事すら出来なくなってしまい、目の前の景色すらぼやけてきてしまう。  偶然通りかかった集落の人に助けられ、私はその人の家で意識を取り戻した。  暖かい食べ物を久しぶりに口にした。  助けてくれた人の家族の人も私に親切にしてくれた。  家の中でぐっすりと寝る事もできた。  身体が一気に蘇ってきた感じだ。  私が元気になると、この集落に来た理由を聞かれる。  私は、坦々と理由を話し出す。獰猛な熊に集落を襲われて、家族が死んでしまったこと。討伐隊が熊の退治に失敗してしまったこと。竜さんに会うために  ここまで一人で歩いてきたことなどを。  この家の人達は、何日もかけて、ここに辿り着いた事に、かなり驚いていた。 「竜さんに会いに来たのかい」  私を助けてくれた人が口を開く。 静かに頷く。 「竜さんはね。あの山の中腹に住んでいる。今は猟師をして静かに暮らしているから、願いを聞いてはくれないと思うが、それでも会ってみるかい」 「ここに来た目的は、竜さんに会う事ですから」  私はその人を見つめて力強く答えた。 「分かったよ。意志は固いようだね。途中まで案内をしてあげるよ」 「ありがとうございます」  お礼の一言にやたらと力が籠ってしまう。 「それでは、明日行こう。今日はゆっくりとお休み」  話は終わった。今日も家の中でゆっくりと休める。そして、明日になれば竜さんに会える。私に残された唯一の希望が、明日、叶うかもしれないのだ。  そんな興奮した状態ではあったが、何故か私は深い眠りについた。
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