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無意識に両眼を閉じようとしたその瞬間。
視界の中に飛び込んできた人影がユフィリアを庇うようにして立ちはだかった。
ズサッ——
鈍い音とともに大きな身体が目の前にくずおれる。
その人影は紛れもなく、ユフィリアの夫であった。
「ユフィリア」
かすれた夫の声が耳に届けば、それまでの喧騒が嘘のように、辺りがしんと鎮まりかえる。
義兄と周囲にいた者たちは消え失せていて、元の暗闇に戻った空間には目の前にぐったりと横たわる夫とユフィリアの他に——何もなかった。
夫が「ぐふっ」と咳き込めば、大量に吐き出された赤黒い血液が彼の礼服の胸元を汚す。
「こんな傷、私がすぐに治してあげる……知ってるでしょ、私のグラシアはとても強力なのよ?……だからダメっ、逝っちゃダメ……」
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