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すると、廊下のほうから注がれる柔らかな風に乗って、甘い香りが漂ってきた。この香りはどこかで…。
「山井くん、何のこと!? 『僕の思い』って?」
明るい軽やかな声の方を振り向く。そこには河合さんがこちらを見つめて立っていた。
「えっ、えーっ!」
僕は反射的に起き上がった。
「私、聞きたい」
「いや、何でもないってば」
「何なの。怪しい」
「それよりもせっかくの花火大会だったのに倒れちゃってごめん」
「別に花火大会なんてどうでも良いから」
僕は河合さんが怒っていないと知って少し安堵した。彼女も僕を見てどこか安心したように見えた。まあ、突然目の前で倒れられたら、誰だって心配するだろう。
河合さんは右手でふわっと髪をかき上げた。そして、再び甘い香りがフワフワと流れてきた。心が落ち着き、とても癒やされる香り。そのとき、河合さんは少し真剣な眼差しで僕に言った。
「熱中症?」
「うん」
「…」
河合さんはベッドに座っている僕の高さに合わせて少しかがむ。可愛い顔がだんだん近づいて来ると彼女の目は閉じられた。やがて僕は不思議な柔らかさを感じた。
僕の目は大きく見開き、河合さんを見つめる。彼女は優しく口を開く。
「あのときの続きだよ」
河合さんはそう言うと、一瞬にこやかな表情を見せた。それからゆっくりと誰もいない廊下の方を向く。
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