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銀色の髪に、色白で華奢な体。伏せたまつ毛は長く、まさに絶世の美少年だ。
だが、さすがの俺も容姿だけで相手を見定めるような下種ではない。きちんと、相手の性格も考慮して接したいのだ。
ということで、相談続行。俺は腕を組み、ゼロ太郎に思いをぶつけた。
「キュートタイプの場合、俺のことは『ご主人様』って呼んでもらうべきかな? あぁでも、ヤッパリ『お兄ちゃん』も捨てがたい! パッションタイプの場合は『ご主人』か『兄さん』か……あっ! 『アニキ』も捨てがたい! どうしようっ、どうしようゼロ太郎!」
[──スリープモードに入ります]
「──機械っぽい逃げ方をするな!」
どこまでも冷たい人工知能だ。まさにクールタイプの化身だろう。
クールタイプはゼロ太郎で補えているからな。それに、こういう場合の悪魔は無垢ピュアキュートタイプか、メチャクチャにツンツンしているパッションタイプの二択だ。ソースは、俺が買った同人誌。ありがとうございます。
しかし、本人の目が覚めない限り、謎は迷宮入り。俺は立ち上がり、一先ずネクタイを外した。
「そう言えば、冷蔵庫の中に食べ物ってなにかあったかな」
ネクタイをテーブルの上に放り、俺は冷蔵庫の中を確認する。
行き倒れていたということは、きっとお腹が空いているに違いない。せめてなにか、食べ物があれば。そう思い、冷蔵庫を眺めてみたものの……。
「あー、駄目だ。十秒でエネルギーチャージできるゼリーしかない。なんでこんなに冷蔵庫の中身がガランとしていて──……って、そりゃそうか。俺、それしか買ってないし」
さて、どうしたものか。さすがに成長期っぽい男の子にこのゼリーだけというのは、気が乗らない。……悪魔にも【成長期】って概念があるのかどうかは、謎だが。
「今からなにか買いに行くか? その間にこの子が目を覚ましたら、きっと不安になるよなぁ。となると、起きるまで俺は外に出られないわけだし……」
ブツブツと繰り返す、独り言。そこでふと、違和感に気付く。
「って言うか、なんでさっきからゼロ太郎はなにも言わないんだ? おーい、ゼロ太郎ー?」
……。……あれ?
あっ、本気でスリープモード入った感じ? この薄情者め!
などと、俺が心の中でゼロ太郎を責めた後。突然、スマホがブブッと振動した。なんだ? 迷惑メールか? すぐに俺は、スマホに届いた通知を確認する。
すると……。
「えっ! ピザの出前っ? まさか、ゼロ太郎……!」
通知は【ピザの出前が完了しました】的な内容。まさかゼロ太郎の奴、冷蔵庫の中にゼリーしかないと嘆いた俺に気付き、すぐに食べ物を注文してくれたのかっ? ゼロ太郎、君ってやつは……!
「──つまり、さっきからずーっと俺を無視していたってこと?」
[──バレてしまいましたか]
ヤッパリ薄情者じゃないか! いや、できた人工知能だとは思うけどな! ピザの出前、ありがとうございました!
それでも即座に返ってきた電子的な声に、俺はムキーッと腹を立てる。
──だが、その瞬間。
「──ん、っ」
「──っ!」
か細くて、まるで吐息のような。そんな、小さな声が聞こえた。
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