4章【未熟な悪魔の小さな初恋でした(カワイ視点)】

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 晩ご飯を食べ終えた後、ヒトはニコニコしていた。 「あぁ~、おいしかった! 『こんなにおいしいご飯を独り占めしちゃっていいのかな』ってくらいおいしかったぁ~っ!」 「良かった」 「まぁ、誰にも渡さないけどさ。余裕で独り占め一択なんだけどさ」 「うん。独り占めして?」 「可愛いッ! カワイのことも独り占めしちゃうぞぉ~っ!」 「苦しいよ、ヒト」  苦しい、けど。でも、またギュッてしてもらえたのは嬉しいな。  そんな気持ちが、またしても尻尾に現れてしまったみたいで。 「おっ、カワイの尻尾が俺の腕に絡んできたっ。カワイは尻尾まで可愛いなぁ~っ」 「あ、ごめんなさい。無意識だった」  無意識にボクは、ヒトの腕に尻尾を絡めてしまっていたらしい。  ヒトの腕から尻尾を離さなくちゃと思ったボクは、慌てて尻尾を動かそうとする。  だけど、ヒトは──。 「どうして謝るの? 俺は嬉しいのに」 「嬉しいの?」 「うん、嬉しい。腕だけじゃなくて尻尾でも愛情表現してもらえるなんて、贅沢なことでしょう?」  「だから嬉しいよ」と付け足して、ヒトはボクのことをさらに強くギュッとしてくれた。  ヒトは、スキンシップが好き。ボク以外にもそうなのかは分からないけど、ボクにはそう。  でも、分かってる。ヒトのこれは、人間が愛玩動物を吸ったり顔を埋めたりするのと同じ。それくらい、分かってる。  でも……。 「ボクも、ヒトにギュッとしてもらえるのは嬉しい」  どんな意味や理由のスキンシップでも、ボクはヒトが好きだからなんでも嬉しい。  ボクはヒトの胸にグリグリと額を当てて、それから顔を押し付けた。 「あのぉ、カワイさんや? もしかして、俺の匂い嗅いでる?」 「うん」 「えーっと、臭くないかな? 俺は事務仕事がメインだけど、それでも一応は一日働いた男の匂いだよ?」 「うん。でも、ヒトの匂いだよ」  ヒトはボクの背中に腕を回したまま「今の『うん』って、、臭いってこと?」とぼやいている。ヒトが臭いかどうかなんて、気にしなくていいのに。 「あー、っと。なんか、ちょっと気になってきちゃった。シャワー浴びてもいいかな?」 「うん、いいよ。お風呂の準備はバッチリ」 「さすが俺のカワイ! いつもありがとうっ!」 「ヒトのボクだから、優秀で有能なのは当然だよ」  そう言い、ボクたちは離れた。ヒトは着替えを取りに行くために、ボクは晩ご飯で使った食器とかの片付けをするために。  ご飯、今日も全部食べてもらえた。『独り占めしたい』って言ってもらえたし、抱き締めてくれたし、笑顔も見せてもらっちゃったな。  ……ヒトに、沢山褒めてもらっちゃった。嬉しいな。 [カワイ君はいつも、主様に褒められると上機嫌ですね] 「また尻尾に出てた?」 [顔に出ていますよ] 「あうっ」  気を引き締めないと、ヒトにだらしない悪魔だと思われちゃう。ボクはほっぺをむにーっと引っ張って、気を引き締める。  そのタイミングでリビングに戻ってきたヒトが「どうしたのカワイ! 可愛いことしてるね!」とはしゃいでいたけど、行動の理由が理由なだけに、ボクはなにも言えなかった。
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