自慢できるほどの恋はしたことがない

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「はい、お土産」松子さまのご学友、朝子さまが来られている。どうも、国外にご旅行に行っていたようである。何やら花の絵が描かれた紙の箱をわたしておられた。 「なあに、これ?」 「フランスのお菓子。ブルターニュのガレットですって」 「行ったんじゃないの、朝子さん?」 「行ったけど、お土産買うのは、全部ママンがするから。失礼があったらいけないからって」  朝子さまがつまらなさそうに、指先で髪の毛をもて遊んでいる。 「シロちゃん、元気?」吾輩を見つけて手招きしてくれた。吾輩は朝子さまの前まで行き尻尾をふって挨拶をした。 「コーヒーを淹れたの。飲みましょう」松子さまが言った。オレンジとピンクのマグカップが二つ出てきた。 「夏、何してたの?」朝子さまが聞く。 「ちょっと、短期でアルバイトして、それからフェス行って、あとはあとは家でシロと遊んでた。ねー、シロ」松子さまは吾輩をみてうなずく。  はい、松子さまと遊んでいただきました。 「アルバイト?何の?」 「イベントのコンパニオン?みたいなやつ」 「ちょっとエッチなやつ?」朝子さんがニヤニヤした顔で聞く。 「どんなふうなのを想像してるのかわかんないけど、普通にスーツ着てなんか説明したりするやつだった」 「レースクイーンみたいなの想像しちゃった」松子さまさのレースクイーン姿なんて、私は断固反対です。  お二人は顔を見合わせて声を出して笑った。
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